忘れた頃にコンニチハ……(小声)
今回は、またしれっとして「グリフィンと欠落の姉妹編」を更新いたしますー。
ついに、外の世界へと繋がる「トビラ」を呼び出したイナ。今は幼児の姿になってしまった、22歳の女性。彼女は扉の取っ手をまわし、幻想と現実がまじりあった世界に踏み込みました。夜空の真ん中から彼女の前へ落ちてきたのは、彼女の愛息子「トリー」の姿。でも、これは本当にあった出来事?イナは本当に、トリーの許にたどり着いたのでしょうか?
……それでは、本日もまいりましょう!
*
イナ「トリー!!」
見間違えようもない小さな息子の姿に、イナは叫び声を上げました。彼女はついに、たったひとりの出会いたかった者に出会ったのです。
イナ「トリー……トリー……起きて……!トリー……!」
トリーのほうへ【泳いで】いこうとして……イナは、自分の足が地面から離れていることに気づきました。トリーと同じように、イナもまた、夜空に浮いているのです。
驚くべき事態でしたが、なぜかイナは、自分が鳥のようになっていることを不思議と思いませんでした。それよりも今は、トリーをこの手に掴んで揺さぶり起こしたかったのです。
泳いでも泳いでも……いくら手足で宙をかいても、いっこうにトリーに近づくことは出来ません。イナとトリーの間には、見えない定規でもあてたように、動かぬ距離が横たわったまま。
それどころか、じりじりと下降してきたトリーは空の一点に到達すると、まるでバウンドするように、再び銀河の向こうへ跳ねあがっていきました。
イナ「待って、トリー!止まって……!」
高く、高く。
糸の切れた凧のように、トリーは留まるところを知らず上昇していきます。豆粒のように小さくなって、その黄色のパーカーがキラッと光ったと思うと、もう見えません。
イナの唇から飛び出した言葉は、翻ってイナ自身の胸を突きました。
「行かないでよ」
そう思っていたのは、本当はトリーのほうではなかったか?
イナから産まれて二年、まだ舌の回らぬトリーは、本当はそれだけを乞うていたのではなかったか?
行かないで、行かないでよママ。
舞台のあかりじゃなくて、ぼくのほうを見てよ……。
しかしかつての生活の幻影は、壊れたカセットテープのように歪みながら、トリーを連れて闇の彼方へ遠ざかります。
*
そして、
まるで、トリーと入れ替わるように、空の真ん中からもうひとつの光が落ちてくるのが見えました。
光……?
それを「光」と呼んでいいのでしょうか?それはもしかすると、白い影をつなぎ合わせ、腐りかけた糊で固めたモノではなかったでしょうか?
それは、人間の姿をしていました。
大人の男の姿をしていました。
まるで、昼と夜の裂け目から生まれ落ちるように、地上めがけてまっしぐらに降りてきます。
イナ「何……?」
オオカミが首をもたげるように、その男が顔を上げ……
イナ「グ、リフィン……?」
男は唇の端を吊り上げるようにして笑い、まさしくグリフィンの声で、しかしもっとザラリとした感触で、イナに向かって言いました。
謎の男「愚かな女。黄昏の男(トワイライト)が沈黙のうちに閉じ込め、全霊をもって封じていたおれを、おまえが呼び起こしてくれるとは」
イナ「…………!……違う!あんたはグリフィンじゃない!」
野生動物に似た本能で、イナはこの男の危険さを感じ取りました。
???「イナ、戻ってこい!イナ!」
耳許かと思うほど近くで、熱を醒ます凛とした声が呼びました。はっとして振り向こうとする前に、イナの足がグイと引っぱられ、イナは地上めがけて落下を始めました。
イナ「うわ!うわわわわわ!」
どこか闇の底で、あの楚々とした扉が開かれるのが見え……
すぽんっ!
そんな明るい音を立てて、イナは扉のなかへと吸い込まれました。イナはそのまま、洗濯機に放り込まれたみたいにもみくちゃにされ……
きゅぽんっ!
もう一度明るい音を立てて、見覚えのある場所に吐き出されました。ドッジボールをキャッチするみたいに、誰かがイナを胸に抱きとめました。
イナ「うー……。何……」
くらくらする頭を振って確かめると、イナをしっかり受け止めていたのは……
イナ「グリフィン!」
間違いなく。
そこにいたのは、本物のグリフィン。
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