今回は、また(いつもながら大幅に遅れた状態での)【グリフィンと欠落の姉妹編】ですー。
イナ・ポートランドの解放にむけて、グリフィンはできる限りの手を尽くし、犠牲を払って道をつなぎました。長い夜が終わり、泥にまみれたイナの人生に、少しずつ光が差そうとしているのでしょうか。
今回は、グリフィンをめぐる人びとが今、なにを見て、なにを感じ取ろうとしているのかを眺めます。
長かった旅が、まもなく終わろうとしています。
それでは、本日もまいりましょう!
(※今回、うちのシム世界に関する独自設定が登場します。ご注意ください)
(※個人的諸事情により、サブタイトルが変更されました。前に似たようなタイトルがあった……)
*
ストレンジャービルの塀のなかで、ひとりの青年が決断のときを迎えました。
彼はだれとも敵対せず、だれの血も流さずに、道を拓くことに成功しました。
いいえ。
彼のしたことは「道を拓く」と言えるものではなかったかもしれない。それでもどうにか、次の段階によじのぼるための足場をつくったのです。
*
グリフィンのいるストレンジャービルの町から、じつにXXマイル。
軍の施設からとおくとおく離れた、南の楽園スラニ。
離れ小島の【灯台荘】で、若い灯台守見習いが、大気がかすかに鳴ったのを感じ取りました。
ハンナ「……なに。なんて言ったの?」
ざわめきに似たその音が自分を呼んだのだと思って、ハンナ・ミナキは音の源を見上げました。
ハンナ「…………!灯台の光源が……」
???「ハンナおねえちゃん!」
家の裏手から、ハンナの妹・コハクが緊張した顔で駆けてきます。
ざわめきに似た大気のうなりは、だんだん大きくなっていく。
コハク「おねえちゃん、これなに!地震!?空気がふるえて、ほっぺのうぶ毛がびりびりする!」
ハンナ「だいじょうぶ。足の裏を感じてごらん、地面は揺れていないでしょ?これは【一番星のカケラ】が、なにかのエネルギーを吸って、共振してるんだよ」
【一番星のカケラ】とは、ハンナの灯台に掲げられた光源の名前です。
はるかむかし、スラニの海底から引き上げられた正体不明のエネルギー体。
それをスラニの人びとは灯台にくくりつけ、導きの光として利用しているのです。
コハク「星のカケラ、怒ってる?」
ハンナ「ううん、怒っちゃいないよ。ただ、今はどうしてか、海と森のあいだのエネルギーが混乱してしまってるらしい。そのことに【一番星のカケラ】は痛みを感じてる。海と森が【永劫の連帯】を約束したはずの者が、我々を忘れて岸辺を離れていく、って言ってるよ」
コハク「高波、くる?みんなに知らせなきゃ」
ハンナ「ううん、今回は必要ない。コハクの公共精神に感謝だね。この痛みは波じゃなくて、もっと別の……」
ハンナはすでに、痛むようなこの音がだれによってもたらされたか気づいていました。
ハンナ「グリフィン……」
*
ウィロークリークの典雅な屋敷では、ひとりの女性が電話をとったところでした。
青い服の女性「はい……」
???【姉さん、ひさしぶり。きょうはスペシャルな知らせがある】
青い服の女性「メル……。ずっと連絡をくれなかったから、あなたはこの家を忘れてしまったと思ってた」
???【聴いてくれ、ヴァイオレット。ついに見つけた】
ヴァイオレット「なにを」
???【おれたちが復讐すべき相手だよ!ああ海の巨人よ。あの男こそやはり、おれと姉さんが捜し続けた魔力の持ち主だった!】
海の巨人よ。
現代の世界ではほとんど忘れ去られた感嘆詞、強い感動をあらわす慣用句を、ヴァイオレットの弟は使いました。
ヴァイオレット「…………」
???【おれはこのときを待ってたんだよ。こうなった以上、おれたちがあの男を斃(たお)すのは時間の問題だ。あの男が同胞たちにしたことを、おれはいまも忘れてない。あいつが世界を焼き尽くして終わりを連れてきてしまう前に、おれたちはやらなきゃいけないんだ】
弟は熱に浮かされたように、義務と怨みと思い込みをいっしょくたにして喋っている。その空虚な言葉は、ヴァイオレットの耳のうしろを通りすぎていきます。
ヴァイオレット(ああ海の巨人よ、わたしはこのときを恐れていた)
ヴァイオレットは胸のなかでつぶやきました。
世界を焼き尽くすあの男も、わたしの哀れな弟も、そしてわたしも、巨人たちがお決めになったとおりに終わりの朝へとむかっている。
人の子はすべて、定められた道のうえを歩くしかないのだろうか?
*
ストレンジャービルの高台、お屋敷町。
ポートランド家の邸宅では、ひとりの少女が時間をかけ、部屋のすみずみまで掃き清めているところでした。
アーモンド・ポートランド。十八歳。
イナ・ポートランドにとって、下の妹にあたる少女です。
使用人を持たないこの邸宅では、料理も掃除も令嬢たちのしごとです。ほこりを払い、かわいた布で汚れを拭う。それが済んだら、ワックスをかけてみがくのです。
アーモンド「どうにか、お茶の時間までに終わったわ。もうすこし遅くなっちゃうかとドキドキした」
キッチン、応接間、食糧庫に階段、プールサイド。
残るは、たったひと部屋です。
アーモンド「あとは……イナお姉さまの……」
アーモンドの顔がだんだん曇り、彼女は重い息を吐きました。
イナの部屋を掃除するのは、近ごろのアーモンドにとって気が滅入るしごとでした。
失踪した姉・イナが少女時代に使っていた部屋は、今もこの邸宅に残っています。
しかし、いくらアーモンドがその部屋を掃除し、維持しようとしても【イナが邸宅をとびだした日のままの……まったくそのままの姿で残しておく】という訳にはいかなかった。
今からふた月とすこし前、奇妙な現象が起こったのです。
はじまりは、一通の手紙でした。
行方不明だったイナから、とつぜん【二度と会えない】という意味にもとれる不穏な手紙がとどいた。おなじ頃、邸宅に残るイナの部屋が【一夜にして百年のときが過ぎたかのように】おそろしいはやさで朽ちはじめた。
信じがたい腐蝕を目にして、アーモンドは行方不明に姉の身に、なにかが起こったのではないかと予感しました。
やがて、不思議な青年が現れました。
青年は【イナ・ポートランドの足取りを追っている】と、アーモンドに打ち明けた。
彼は朽ちた部屋を見ても驚かず、イナを捜すために全力を尽くすことを、言葉ではなく態度で示してくれたのです。
彼が現れた夕方から、何日が過ぎたのか。何週間がすぎたのか。
あれきり不思議な青年は現れず、便りひとつありません。
アーモンド「あの方こそ、わたしの淡い希望が創りだしたまぼろしだったのではないかしら」
姉は、やはりだめなのかもしれない。
もう二度と、この屋敷にはもどらないのかもしれない。
そんな思いに覆われたまま、アーモンドは掃除用具の入ったバケツを持ち上げ、姉の部屋のドアを開けました。
アーモンド「…………?…………!!」
アーモンドが目にしたのは、昨日までの朽ち落ちそうな部屋の姿ではありませんでした。
そこにあったのは、
アーモンド「夢……?世界が、恢復している……」
まるで、ここにいない姉が幸福であるかのように平穏が満ちて。
アーモンド「イナお姉さまは、だいじょうぶ、なの……?」
どんな不思議なちからが、部屋をこんなにも気持ちよく整えたのか。
妖精なのか、天使なのか、それとも。
アーモンドの唇にほほえみが浮かび、彼女は涙を払いました。
アーモンド「聴いて、ネモフィラお姉さま!イナお姉さまのお部屋が……!」
ずっといっしょに邸宅を守ってきたもうひとりの姉の許へ、彼女は風のように駆けて行きました。
つづきます!
*
今回の後半「箒を持っているアーモンドのお掃除風景」は、MODをお借りしております。
ムーアの姉・ヴァイオレットが持っているiPhoneは、
よりお借りしております。
皆様、いつもありがとうございます。
Thanks to all creators!
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