いやはやいやはや。
忘れた頃にやってくる【欠落の姉妹編】でございます。
今回は、約五十日ぶりの更新でございます(平伏)
この五十日、プレイヤーがちょっと体調を崩したりして考えがまとまらず、こんなに遅くなってしまいました。そんな個人的事情はとりあえず置いておくとして、今日も始めたいと思います……(再び平伏)
*
グリフィンは旧友イナを解放するために闘い続け、その闘いは終わりました。彼の選択により、世界はまた少しずつ色を変えてゆきます。そして……
それでは、本日もまいりましょう!
*
???「イナ・ポートランド。刻限である」
その朝、だしぬけにスピーカーがそう告げたので、イナは目を醒ましました。
イナ「……まだ七時半だよ。今日はあたしに何を証言させる気?」
壁に埋めこまれたデジタル時計を見て、イナは憎まれ口をたたきました。二十二年前にこの世に送り出されてから今日までずっと、イナは十一時までは寝ていたいタイプでした。
???「これより、マルボロ少尉がきみの房(ぼう)にむかう。あとは彼に従って行動したまえ」
イナ「…………?」
スピーカーから流れる声がだれのものなのか、イナはよく知っていました。
イナが囚われているこの施設で、いちばん権力を持っている女。彼女の「はすに見るような」光る目が、イナは好きではなかった。
あの女の自信に満ちた顔を見ていると【あたしは彼女に似ているのではないか】という気にさせられた。なんでも自分の思いどおりになると信じて疑わない、傲慢な女。
実際、イナはかつてそんな娘だった。
部屋の扉が消毒の蒸気を噴きながら開き、イナの物思いは中断されました。
先刻の放送のとおりマルボロ少尉が入ってきて、開口一番こう言いました。
マルボロ「イナ・ポートランド。これよりきみは、当施設をあとにする。五分あたえる。準備を」
イナ「えっ……」
*
もしかすると。
もしかするとこのような日が来るかもしれないと、イナは心のどこかで予感していました。逃亡騒ぎを起こした身である以上【もっと警備の厳しいカンゴク】に、身柄を移される日が来るかもしれないと。
それはそれで、甘んじて受けるしかないとも思っていました。
どちらにしろ、イナ自身に選択の余地はない。
ただ、何があっても、陽のあたる世界に帰る未来をあきらめはしない。
あたしはもう一度踊りを始めるし、いつかトリーを見つけるだろう。
イナ「…………」
ひとつだけ、打ち消すことのできない心残りは、イナのためにすべてを投げうってくれた心やさしい友だちに、別れの挨拶ができないことでした。
イナ(グリフィン。あたしあきらめないけど、もしかすると、これが最後の……)
イナ・ポートランドはひそかに車に乗せられて、軍の施設から運び出されました。
移送に使われたのは一見、なんの変哲もない乗用車でしたが、窓の内側には布が張られ、イナのチャイルドシートが据えられた後部座席と運転席の間にも、厚い布が下ろされていました。イナは、自分がどこにむかっているのかわかりませんでした。
いっさいの刺激から遮断されて、イナは眠り、眠り、眠り続けました。
運転手「到着だ。降りなさい」
イナ「…………?」
中年の運転手は穏やかな顔で、イナをチャイルドシートから抱き上げました。
運転手「おめでとう。イナ・ポートランド」
ほほえんでいる彼の肩のむこうに、イナがよく知る赤土の大地と、灼熱の日差しが見えています。乾燥した風の匂いは、イナ自身の子ども時代を思いださせました。
イナ「……そんな……ここ…………」
車から降ろされた姿勢のまま、イナは言葉もなく立ちつくしました。
イナがいるのは、故郷の街角。実家のそば。
ストレンジャービルのお屋敷町の一角でした。
この道の先に、イナが生まれ育った邸宅が建っている。なつかしくも疎ましい、あの格式ばったポートランドの家が。
運転手「あとは、きみの友人に任せてある。きみは自由だ」
運転手はかがんで目の高さをイナに合わせ、短く敬礼してみせました。そうして、あっというまに車にもどり、エンジン音と共に走り去りました。
イナの前にはいま、二度と会うことはないと覚悟していた友だちが立っています。
道には、ふたりしかいなかった。
イナ「…………」
グリフィン「帽子をかぶってくるべきだったと思った。あなたのように」
グリフィンがまじめな顔をして、まったくあさってなことを言いました。
グリフィン「あなたを待ってる間、頭皮をやけどするかもしれないと思ってた。今日は日差しが強すぎる」
イナ「そうだよ。いつから立っていたの」
自分でもなんだかわからない涙がせりあがってくるのを感じて、それをこらえようとして、イナの言葉はむやみに強くなりました。
グリフィン「知らない。時計を見ていなかった」
やはりまじめな顔で彼は言い、
グリフィン「行こう。あなたは、家に帰る。彼らはそれで納得した」
ほんの一瞬、イナは目をさまよわせました。
十七歳でこの町をとびだして、サンマイシューノの修業時代、初舞台、結婚。トリーが生まれて、やがて離婚。謎の病で身体は縮み、いまこうしてここにいる。
ここに立つことになるまでに、あまりにも多くの曲がり角がありました。
ストレンジャービルをとびだした日の、希望に燃えるイナはもういませんでした。
イナ「なにを言えばいいの。いまさら妹たちの許にもどったところで、彼女たちになにを」
グリフィン「そのままの心を言えばいい。五年の時がすぎても、どれだけ泥をかぶったとしても、あなたは自分で思ってるより変わってない。そこに立った時に、思ったことを言えば、それで」
イナは友だちの青い瞳を見上げながら考え、自分に尋ね、自分の本心に問いかけました。
イナ「……うん。やってみるよ」
グリフィンとイナは邸宅へのゆるやかな坂道を、つかず離れず歩きだしました……。
欠落の姉妹編、最終場面目前です。
つづきます!
*
Thanks to all MOD/CC creators!
にほんブログ村
0 件のコメント:
コメントを投稿