本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
グリフィンの旧友であり、謎の症状により幼児の姿になってしまった女性イナは、グリフィンに「行方不明になった息子・トリー坊や」の捜索を依頼しています。グリフィンは持ち前の粘り強さを発揮して、トリーの消息を追い続けました。
その結果得られたのは「ストレンジャービル近郊の宿場で、人や動物が次々に行方不明になっている」という異様な事実。人びとはその現象を【消滅事件】と呼んでいるというのです。
この事件について知らされたイナの不安は、深まるばかり。今回は、グリフィンが報告を終え、病室を辞したあとの「イナ・ポートランドの動向」を追いかけます。
……それでは、本日もまいりましょう!
(今回も、やっぱり長めです……!)
*
その晩、イナ・ポートランドはまんじりとも出来ませんでした。昼間、グリフィンがもたらした【奇妙な情報】が、彼女に不安を与えていました。
*
イナ「ワットさんの運転する車は、トリーを乗せて……その、本当に消えてしまった……ってこと?」
グリフィン「確かに、事実を並列するとそう聞こえる。だが、ただ並列しただけだ。それぞれは別個の事件で、横の繋がりはないかもしれない。まだ何もわからない」
*
グリフィンは冷静であり慎重でもあり、トリー坊やの行方を無責任に推測するような真似はしませんでした。けれど、何人もの住人が【消滅】した話を持ち出して、トリーの話と【並列】したのも事実でした。
イナ(……あんなふうに言われたら、トリーも煙みたいに消えてしまったんじゃないかって、あるいは得体の知れないブラックホールに飲み込まれてしまったんじゃないかって、あたしはそう思ってしまう。グリフィン、あたしはあんたみたいに論理的に考えられないから)
居ても立ってもいられないような心持ちで、イナはパタパタと手足を動かしました。
イナ(グリフィンとあたしじゃ、性格が違い過ぎるんだ)
それを認めてしまうと、深い孤独を感じました。彼と自分との間に、埋めがたい断絶があるように思われたのです。
イナ(グリフィンにばかり頼るんじゃなくて、あたしも自分でトリーを捜しに行けたらいいのに。トリーと……それから、ワットさんもかな。ケンカ別れをしたけれど、消滅してほしいなんて願ってはいなかった)
そこまで考えて、彼女は重苦しいため息をつきました。
イナ(……なんということだろう。グリフィンはあんなに良くしてくれるのに、あたしはそれをうしろ足で蹴飛ばして、自分で歩き出したいと考えてる。自分の家族を、自分の力で取り戻したいと考えはじめてる。なんて恩知らずで、傲慢な女なんだろう)
イナ(でも、焦りを抑えられないんだから仕方ないと思う。トリー……。消滅してしまうって、どういうこと?水蒸気のように、蒸発してしまうの?)
彼女はブルッとふるえました。
イナ(捜しに行きたい。この病室の壁をぶち壊して、修復不能な大穴を開けて、そこから這い出してでも捜しに行きたい)
イナ(ヒーローみたいな友達に頼るだけじゃなくて、お姫様みたいに尽くされるだけじゃなくて、どうしたって自分で立たなきゃいけないんだ。あたしは誰?忘れないで、あたしはイナ・ポートランド。いつかずっと昔、路地裏の野良犬のように生きたいと思ってた)
彼女は小さなこぶしを握り、
イナ「……かつては、痛みを恐れなかった。鼻の曲がる腐臭の気配があっても、目を塞ぎたくなる事実が待つとしても、この自分自身で確かめたいと願ってた」
口に出して呟きました。
???「抜け出せばいいではないか。壁を壊し、修復不能な大穴を開けて」
イナ「!?」
いつのまに入ってきたのか、暗がりにフードをかぶった見知らぬ男が立っていました。
イナ「……誰?夜中の巡回は、一時間も先でしょ?……ううん」
眉間にキュッと皺を寄せて、イナはベッドから飛び降りました。そして、次のように事実を突きつけました。
イナ「壁を壊して抜け出したい、あたしは確かにそう思った。だけど、それを口に出して言ってはいなかった。あたしが声に出したのは【かつては痛みを恐れなかった】のほう。あんたは誰。あたしの心の声を聴いたというの?」
男は顎を引き、くぐもった笑い声を洩らしました。
フードの男「願うか?」
イナ「何を」
???「そなたの愛息子をみずからの目で見つけ出したいと、そなたは本当にそう願うのか?」
この男、どこまで知っているのだろう。イナは真っ先にそう思いましたが、それよりも彼女一流の衝動が、烈しく頭をもたげてきました。
イナ「願う!あたしはトリーを捜したい。他でもない、自分の力で。あの子が得体の知れないブラックホールに飲みこまれていたとしても、その手を掴んで引きずり出したい!」
ハッキリした声で、彼女は本心を告げました。
男は満足そうに頷いて、黒装束に包まれた腕をひと振りしました。
途端に、病室の片隅に一枚の鏡が現れました。
イナ(…………!この男、魔法使いだ。グリフィンと同じ。でもグリフィンは、あたしの部屋で魔法を使うような傍若無人なことはしなかった)
フードの男「鏡は扉だ。ここに飛び込み、通り抜ければ、堅固な牢獄の外に出られる。自由の身となり、どこへでも行ける」
イナ「そんなことを言って、その鏡に入ったら、あたしもトリーのように消えてしまうってことは無い?」
イナは唇の端を吊り上げ、不敵に言い返します。妙な鏡を見せられて「ああそうですか」と納得するほど素直ではありませんでした。
フードの男「そなたも消滅するとなれば、それはそれで好都合だろう。そなたもまた、消え去った息子のいる場所にたどり着けるかもしれぬ。それとも、そなたは別の物語を信じているのか?そなたの息子があとかたもなく消滅し、今はもうどこにもいないのだと」
イナ「いいえ!」
恐怖をかき消すように、彼女は昂然と叫びました。
イナ「……オーケー。行くわ」
イナは注意深く、鏡に歩み寄りました。
そっと手を触れてみると鏡の表面が溶解し、イナの指は鏡面の向こうへと突き抜けました。向こうがどうなっているかは見えませんが、ひんやりとして気持ちがいい。真夏の木陰で、池に手をひたした時のような感じでした。
ひと呼吸おいて、彼女は鏡のなかへ飛び込みました。
イナ・ポートランドの身体は、こうして病室から消え去りました。
フードの男「…………」
あとには、フードをかぶった男だけが残され、
フードの男「聴こえているか、黄昏の男(トワイライト)」
男の声は歪みながら、不自然に反響して拡がります。
フード「おまえの友が立ち上がるぞ」
*
グリフィン「…………!?」
グリフィン・トワイライトは、弾かれたように目を醒ましました。
一日が終わり、彼はすっかり疲れて眠りこんでいたのです。それがとつぜん、つめたい刷毛で背筋を撫でられたように感じました。
ロイヤル「え……どうした?」
グリフィンが機械仕掛けのように跳ね起きたので、彼の弟が面食らった声を出しました。
グリフィン「…………。何かがカギをこじ開けた」
ロイヤル「は?」
グリフィン「わからない。だが呼ばれた。カギをこじ開け、悪意あるモノがやってきた」
目の前の弟に対してではなく……彼は確かな敵意を持って言い切りました。その瞳のまわりには……彼自身の魔力が、見たこともないほど強く、青白く結晶していました……!
つづきます!
*
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