本日は【欠落の姉妹編】最終話を掲載いたします。
2020年11月1日に第1話を掲載してから、2年3か月。
お陰様で、予定より大幅に遅れながらも、無事この日を迎えることができました。心よりお礼申し上げます。
グリフィンとイナが、旅路のはてにそれぞれ掴んだものは何だったのか……。
それでは最終回、まいりましょう!
*
四年前。
いま、となりを歩く友だちと、雪の街角で別れた朝。
あれから、じつに多くのできごとがあったと、ふたりともが感じていました。
そしてもちろん、ふたりが再会したのちも、さまざまなできごとに見舞われました。
イナ「訊きたかったことがある」
このときを逃せば、二度と尋ねる機会はない。
そう決意したかのように、イナが静かな声で言いました。
グリフィン「ああ」
イナ「あんたはあたしのために、ずっと身を棄てて働いてくれた。そのおかげで、いまあたしはこの坂道をのぼってる。……ううん、あんたは【そうだ】と言わないだろうけど、あんたが世界を小さく変えてくれたことはわかっているの」
グリフィン「…………」
イナ「そしてあたしは、あんたが働いてくれることがうしろめたかった。あたしはただ、あたしのために生きることしかできないから。でもほんとうは……うしろめたかったのは、あんたのほうなの?」
イナ「四年前、あたしがあんたを振り切って去ったとき、あんたは【イナを止められなかった】と、自分を責めた?それで、再会したあたしを助けるために、あんた自身を犠牲にしてもかまわないと思ったの?」
グリフィンはすこし目を上げて、ふるえるようにささやかな息を吐きました。
イナのことばは、彼の心を動かした。
心臓が二回打つ間に、彼は「できうるかぎり正確に、誠実に答えよう」として考えました。
グリフィン「罪の意識からじゃない」
イナ「…………」
グリフィン「もし四年前に戻れるとしても、おれはやはり、あなたのために何もできはしないだろう。あの頃のおれの限界だ。あなたもまた、おれを必要としないだろう」
グリフィン「おれはただ、いまの自分にできることをしたかった。無我夢中だったこともある。【壊れたもの】を、修復しているような気分だったこともある。だがだいたいは、自分がするべきだと思ったことを、自分で選んでおこなった。いまもその道の途中だ」
イナ「…………。うん」
イナは落ち着いた目をして、ほほえみました。
その横顔は、これまででいちばんあたたかく見えました。
イナ「あんたはそういう男だった。……あたしも行くよ、自分の道を。あんたがあんた自身に問いかけて選びつづけたように、あたしも賢く、勇敢にならなきゃいけないんだ」
金色の髪に手をやって、イナは日差しのむこうを見上げました。
イナ「だれにも言えなかったことがある。あたしはワットさんの女になって、彼の力を使って舞台に立った。その選択を悔いたことはないけれど、あたしの人生がなにか重大な欠損を抱えてしまったような気分はついてまわった。あたしという人間は、なにか重要なモノが欠けてるんじゃないかって」
グリフィンもまた、日差しのむこうを見つめています。
イナ「でも、見方を変えると……」
イナ「ワットさんだって【舞台】というニンジンをちらつかせて、あたしを求めるべきじゃなかったんだよ。あたしをほんとうに愛していたなら、なおのこと。グリフィン、あたしがワットさんの許に行くと言ったとき、あんたはあたしに【危険だ】と言ったよね?あの頃、踊るためなら何を棄ててもかまわないと思ってたあたしに見えなかったものが、いまのあたしには見える」
イナ「失ったものは多い」
嘆くのではなく、イナは赦すように言いました。
イナ「でも、もう一度はじめることはできる。あのシセツにいたおかげで、考える時間はたっぷりあった」
大丈夫だ。イナ、心配いらない。
あなたが、あなたである限り。
グリフィンは心のなかで言いました。
*
ポートランド邸のまえには、邸宅の娘たちが待っていました。
ネモフィラ・ポートランドと、アーモンド・ポートランド。
失踪した姉を待ちつづけた少女たち。
イナは前庭に足を踏み入れたところで、動けなくなりました。
ずっとむこうのポーチの下から、妹たちが鼻を赤くして、小さなイナを見つめている。
イナもまた、声もなく妹たちを見つめています。
さあ。
イナの背中を押すように、グリフィンが小さくつぶやきました。さあ。
イナ「…………。ずっと、」
イナは思いきって、うわずった声で言いました。
イナ「ずっと、待っていたの?あたしを?」
妹たちの顔がゆがみ、彼女たちは何度もうなずきました。
イナ「あたし、きっとまた、自分の人生を求めてこの町を出ていく。やらなければならないこともある。ゴムまりみたいに跳ねまわって、羽を休めることなどできやしない。それでもまた、ここからはじめても怒らない?」
妹たちは何度もうなずきました。
*
町の中心にあるトレーラーパークで、ひとりの少年が、水を汲むために表に出てきました。
ロイヤル「…………。あれ」
庭のベンチに思いがけない人の姿を見つけて、ロイヤルは声を出しました。
シャーロッタ「ロイヤル様?どうかしましたか?」
ロイヤル「いや、いつのまに帰ってきたのかと思ってさ」
シャーロッタ「あら……」
ロイヤルとシャーロッタは、顔を見合わせてほほえみました。
*
語り洩らしたことは多く、解決されていない問題もまた、列をなしてグリフィンの到着を待っています。
それでも、グリフィンのひとつの闘いはいま、終わりました。
イナ・ポートランドはついに、光の世界に戻ったのです。かずおおくの試練が予想される、わたしたちの世界に。
グリフィンはしばし休息の時を得て、穏やかな日常をすごします。ときが来れば、彼は再び、新たな冒険に赴くでしょう。そうして、世界は次の段階に進んでゆく。
まわりの人びとに支えられながら、グリフィンの物語はまだつづいてゆくのです。
長い間、グリフィンとイナの物語を見守って頂き、ありがとうございました!
次のお話で、またお目にかかります!
Thanks to all MOD/CC creators!
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