今回は、現行のお話シリーズ「きみは、あしたもここにいる(幕間)」の最新話を保存したいと思います。
お陰様で、やっと準備が整いました。
*
えーーーと、ハイ!
まずは定型のご挨拶を。
このお話は、プレイ記録をお話仕立てにしたものではありません。こちらは、おもにシムたちのポーズ画像を挿絵にして、うちの世界独自の設定なども盛り込んでストーリーが展開していく「シムズ小説」とでも呼べそうなシロモノです。ぺこり……。
*
というワケで、
星空シムズ年代記より「きみは、あしたもここにいる(幕間)」
それでは、本日もまいりましょう!
第一の話(その4)
その夜のこと
ハンナ「もしもし?」
電話の相手「…………。ハンナねえさんなの?」
聞き覚えのあるハイトーンの声が、受話器のむこうで言いました。
ハンナ「…………?」
ハンナは、奇妙な違和感をおぼえました。
これはほんとうに、あの子の声なのか。
あの子の声にしては、不思議とあどけなく聞こえはしないか。
しかし、記憶の図書館の扉を開け、書架から書架へと駆けまわり、みずからの記憶をかたっぱしからひっくり返してみても、その声の持ち主はひとりしかいませんでした。
ハンナ「えーっと……あ、わかった!あれでしょ!家族のフリをしておうちに電話をかけてくるワルモノの詐欺師がいるって、聞いたことがあるよ!」
電話の相手「ちがうよ、ねえさん」
相手が、げっそりした声で言いました。
ハンナ「そうなの?でもどうしたら、あんたが詐欺師じゃないってわかるだろう。合言葉を言ってみる?」
電話の相手「うちら、合言葉なんて決めたことないでしょ。……わかった。証拠を出すよ。あたしやねえさんの飼い犬のなまえは、レモネード。コーギーの女の子。飼い猫のなまえは、クゥ。しっぽの短い茶色のねこで、やっぱり女の子」
ハンナ「ほんものだ!エヴァーブルーなんだね!」
ハンナの声がおおきすぎたのか、相手が受話器を耳から離してダメージから立ち直ろうとしているような「間」がありました。
エヴァーブルー・ブレイク。
ミナキ四姉妹の「三女」で、ハンナの妹。
金髪をゆらして歩く奔放な彼女が、一通の手紙をよこして消息を絶ってから、何週間がすぎたでしょう。
エヴァーブルー「……そうだよ。あたしはまだ、エヴァーブルーだ」
ハンナとのどうということのない会話に心を動かされたのか、もしかすると懐かしく思ったのか、エヴァーブルーはふいに声をつまらせました。
ハンナ「ブルーの声を聴けてよかったよ。元気にしてる?」
いや、それよりも。
あんたはいま、いったいどこにいるの。
おそろしい目に遭ったりしてない?
いやいや、あんたが健康ならかまわないの。とうさまのジャムを送ろうか?
あ、ねえさまが編んだ靴下もあるよ。
長らく行方をくらませていた妹に尋ねたいことは、五十個くらいありました。けれど、妹を詰問して彼女を追いつめてしまわないように……その結果、妹が電話を切るという行動に出てしまわないように、ハンナは質問の種類を慎重に選びました。
エヴァーブルー「元気だよ。ごはんは食べてるし、よくしてもらってる」
だれに?
と思っても、ハンナが言うのは、
ハンナ「あ、そう。じゃ、よかった」
おそらくエヴァーブルーはいま、公衆電話かなにかから灯台荘に掛けているはずでした。
というのも、ハンナはソニアはこれまで何度もエヴァーブルーの携帯電話に掛けてみたのですが、つながったためしがなかった。
そしてとある夕方、ハンナが「また、つながらないのかなぁ」と思いながら掛けてみたとき、ついに「この番号は使われておりません」のアナウンスが流れました。あの無慈悲な音声を聴いた日の、奈落にすべり落ちていくような感覚といったら!
エヴァーブルー「……ハンナねえさんは、こんなときでも落ち着きはらってる。あたしに訊きたいことがいっぱいあるはずなのに」
エヴァーブルーの声に、苦笑のようなものが混じりました。
ハンナ「そうなの?ほんとうはドキドキしてるよ。手に汗かいてるから、ブルーにもさわってみてほしいくらい。だって、あんたからのホットラインを熱望してたからね。でも、いままでのことはどうでもいいや。伝えたいことがあって、電話をくれたんでしょ?」
エヴァーブルー「あしたの夕方六時に、サンマイシューノの郵便局通りに来てほしい」
ハンナ「ほう」
ハンナはボールペンをつかみ、メモ帳を引き寄せました。
エヴァーブルー「郵便局の裏手にちいさな広場があるのは知ってるでしょ。花屋のまうしろの、公衆トイレがあるとこ。あそこに、ソニアねえさまとハンナねえさんで来てほしいの」
ハンナは、判読不能な殴り書きでメモをとっています。
ハンナ「復唱するよ。あしたの夕方六時に、サンマイシューノの郵便局通りの裏手の広場。お花屋さんのまうしろ。ソニアねえさまとハンナで行く」
エヴァーブルー「合ってる」
ハンナ「なにか、持ってきてほしいものはある?」
エヴァーブルー「灯台荘に、携帯用のラジオがあったよね。むかしとうさまが使ってた、かわいいラジオ。あのラジオをもしハンナねえさんたちが使ってなくて、ブルーに譲ってもいいと思えたら、持ってきてほしい。悪いけど、電池はそっちで入れといてほしい。情報源がほしくて」
ハンナ「わかった」
エヴァーブルー「……おねがい、とうさまとかあさまには言わないで。あたしから電話があったこと。ふたりに言わずに、サンマイシューノまで会いにきて」
エヴァーブルーはおなかが痛むような、苦しそうなささやき声で頼みました。
ハンナ「わかった。言わない」
エヴァーブルー「ごめん」
ハンナ「いいよ。事情がありそうだってことは、察してるつもりだよ」
エヴァーブルー「うん。とうさまとかあさまは元気?ソニアねえさまやコハクやどうぶつたちや、ハンナねえさん自身も」
ハンナ「元気爆発だよ。電話ありがとう。あしたね」
エヴァーブルー「あした、かならず」
ハンナ「まかせて。チコクしないようにがんばるから」
エヴァーブルー「ふふ。じゃあね」
ハンナは鼻の穴を広げ、ロボットみたいなカチコチの動きで受話器を置きました。ドッと息を吐いて振り返ると、ソニアとコハクが顔の筋肉を緊張させて立っていました。
ソニア「あおちゃんなのね」
コハク「エヴァーブルーおねえちゃんだったんだね」
ふたりは同時に言いました。
ソニアは、エヴァーブルーのことを「あおちゃん」と呼びます。
ハンナ「……ハイ、ご推察のとおりです。心臓とびだして、しぬかと思いました。あぁ、鼻血出そうです」
コハク「なんで敬語なの。だいじょぶ?キンチョウしすぎちゃった?」
ソニア「すわって」
ゆでだこみたいに真っ赤な顔をして、頭から蒸気を噴いている(ように見える)ハンナを、姉妹はダイニングチェアに掛けさせました。
エヴァーブルーとなにを話したか、ハンナは姉と妹に伝えました。
ソニア「それであおちゃんは、あしたの夕方六時に郵便局通りまで来てほしいと言ったのね?ハンナちゃんとわたしを名指しして」
コハク「コハクは?」
コハク自身が、横から言いました。
名指しされなかったことに不満のある顔です。
ハンナ「コハクのなまえは言わなかった。……なんでだろ。これがつまらないおとなだったら、九歳のコハクに夜のサンマイシューノを歩かせるワケにはいかないからと言うんだろうけど、ブルーがそんな分別くさいことを言いはしないだろうしね」
ソニア「あおちゃんの性格については、たしかにハンナちゃんの言うとおりね」
ハンナ「ま、ブルーがなにを思ってるのかは、ブルーに訊いてみなきゃわかんない。あたしたちヴァンパイアじゃないから、読心術も使えないしさ。あたしが推し量ってみたところで、だいたいはずれるよ。人の心なんてものは」
ハンナの理屈は、なんだか妙な展開を迎えていました。
コハク「…………。コハクも行きたい」
ハンナ「あたしがコハクだったとしても、そう思うと思う。でも、ここまでの情報を総合すると」
ハンナはボールペンをパタン!と振って、眉間にしわを寄せました。
ハンナ「今回はコハクは連れていかない。と、言いたいと思う。ねえさまはどう思う。あたしは、今回の遠出は、なんだかスリルのニオイがすると思う。コハクはこの灯台荘に残って、ソニアねえさまとあたしのかわりに灯台の火をまもってほしいと思う」
ソニア「うん、そうだね」
コハク「…………。…………」
スリルのニオイがする冒険ならば、なおのこといっしょに行きたいと、コハクは思ったようでした。
けれど、姉たちにかわって灯台荘をまもり、スラニの夜をまもることは、いちにんまえの勇者にふさわしい任務だとも考えたようでした。
コハク「……わかったよ。灯台荘をまもる」
ハンナ「ありがとう。コハクのぶんまで、ものごとをよく見てくるよ」
ソニア「レモネードやどうぶつたちのこと、まかせるね?」
コハクは真剣にうなずきました。
ハンナ「……それにしても、すごい夜だ。一夜にして一週間がすぎた気分がする。そんなむかし話がコモレビ山にあるって聞いたことがあるよ。海底のお城から帰ってきたら、三十年がすぎてる話」
ソニア「とにかく、あおちゃんが無事なら、いまはそれで充分よ」
それはたしかに、そのとおりでした。
つづきます!
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