本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
外界からの刺激に反応しない「小さなイナ」を気遣い、面会に臨み続けるグリフィン・トワイライト。ある日、イナを連れて施設の庭に出たグリフィンは、彼女の魂の扉がノックされる瞬間を目にします。イナ・ポートランドはついに、喪ったものを取り戻すのでしょうか…?
それでは、本日もまいりましょう!
*
ふたりの男が話し続けるその横で……イナに変化が訪れました。はたり、はたりと、優雅に手を動かします。それは、あるいは翼のように。
ムーア「おい……!」
グリフィンは既に、彼女の異変に気づいていました。さらに何か【驚嘆の文句を口にしようとした】ムーアを手振りで黙らせ、彼女の動きを注視します。
グリフィン「…………」
イナは七回腕を上下させ、そして目を開けました。
それきり身動きせず、浅い呼吸を続けています。彼女の虚無的な瞳の奥に、奇妙に強い光が宿り始めています。
ムーア「なんだってんだ……?映画のワンシーンじゃねぇんだぞ……!」
グリフィン「…………」
今、自身の振舞いを誤ってすべてを台無しにしてはならない。野性的な鋭敏さでそう感じ取り、グリフィンは息を殺しています。
ムーア「おい、待……!」
まるで王女に進言するかのように、彼は低い声で命じました。
*
それは、無音の世界でした。
イナは羽のように軽やかにグリフィンの手を離れると、幼児とは思えぬ静謐さで踊り始めました。不思議だったのは、彼女が見事なピルエットを見せた時も、あるいは高々と飛び上がった時でさえ、その瞳は閉じられていたことです。
ピアノはなくヴァイオリンもなく、乾いた風の吹き抜けるなかで……彼女は五十秒に渡って、動き続けました。
その足が止まり、その腕がしなやかに下ろされ……、彼女は今度こそ、深い息をつきました。
グリフィン「イナ・ポートランド!」
世界じゅうの霧を晴らす声で、グリフィンがその名を呼びました。
イナ「…………」
グリフィン「…………」
イナ「…………。なぜ、あんたがここにいるの。あの頃出会った男の子。時間がさかさまに流れてるみたいに」
グリフィン「すべては偶然の産物かもしれない。何かが引き合わせようと働いたのかもしれない。だがとにかく、あなたはこの町に戻ってきた」
イナ「そうじゃない、そうじゃないんだよ……!サンマイシューノのグリフィン!」
確かな発音で、彼女は【彼がそこにいること】を認めました。幼児の愛らしい声色ではなく、二十二歳の女性の発音です。そして同時に、張り裂けるような響きがありました。
彼女が地面を蹴って彼に駆け寄り、一瞬、抱擁を求めるかに見えました。しかし、彼女はそうはせず、彼の腿に爪を立てて掴みかかりました。
イナ「どうして、あたしの目を醒まさせたの!あたしはもう幕を下ろし奈落に潜って、二度と目を開かないと決めていたのに!あんたを呪ってやる。あたしはもう、どんな音楽にも耳をふさいで、永い眠りにつこうと決めていたのに……!!」
グリフィン「…………!!」
烈しい悲嘆をぶつけられたグリフィンに、答えるべき言葉はありませんでした。
彼のポケットで、呼出機が面会時間の終わりを告げています。しかし彼は、根が生えたように立ち尽くし、彼女の呪詛に耳を傾けていました……。
つづきます!
*
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