本日は、また【グリフィンと欠落の姉妹編】ですー。
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グリフィンは、イナの心からの望みを聴いて行動に出ました。軍施設の責任者・ハウラ大佐に談判したのです。「イナ・ポートランドを解放してほしい。彼女と対話し、彼女を尊重してほしい」と。彼はその後どのように行動し、彼の身に何が起きたのか……?
それでは、本日もまいりましょう!
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グリフィン「イナ・ポートランドがどこへ行こうと彼女を見失わず、その手を握って離さない存在が必要だというのなら、おれがその【手】になります。おれにはそれが出来る。おれと彼女の間には、すでに繋がりがあるから」
ハウラ大佐「うむ……?」
ハウラ大佐は興味をそそられたというように、続きを促しました。
ハウラ大佐「きみの魔力でポートランドに【魔法発信機】を仕込む……そんな話ではないのだろうな?」
そんな軽口まで付け足して。
無論、【魔法発信機】などというシロモノは実在しません。
グリフィン「魔力ではなく、嗅覚です」
グリフィン「おれはイナ・ポートランドの【魂の匂い】を憶えてる。彼女がどこにいるか、何をしているか、その気になればおおよそ嗅ぎ分けることが出来る。以前はこんなことは出来なかった」
ハウラ大佐「…………。うん?」
グリフィン「聴いてください。あの白い監獄で彼女と面会した時、彼女の匂いを識別できる自分に気づいた。いまも、あの監獄から数区画離れてるのに彼女の匂いを感じる。証拠を示してもいい。イナ・ポートランドに許可をとってください。あなたのプライバシーに立ち入って申し訳ないが、あなたがいま何をしているか、カメラを見ずに言い当てても構わないかと」
流石のハウラ大佐も、あっけにとられてグリフィンを眺めました。この若者は何を言っているのだ、と。
ここで事態を膠着させてもしかたないので(と、大佐は考えたらしかった)彼女は片耳にイヤホンを装着し、グリフィンに見えない角度で第二モニターを立ち上げました。
ハウラ大佐「イナ・ポートランド。聴こえるか」
イナ「…………?なに」
イナの声は大佐の耳のなかにだけ響いていて、グリフィンには聴こえません。
ハウラ大佐「グリフィン・スノウフイールがこう言っている。ポートランド、きみのプライバシーに立ち入って申し訳ないが、きみがいまそこで何をしているか、当てても構わないかと」
イナが示した反応は、ハウラ大佐のそれとおなじものでした。グリフィンは何を言っているのだろう、と。
イナ「…………。手品?」
大佐が苦笑を洩らしました。【わたしにもわからない】という意味です。
イナ「……まぁ、いいけど。あ、ちょっと待って……オーケー、どうぞ。グリフィンにそう伝えて」
ハウラ大佐「感謝する」
こうして許可を得たグリフィンは、もったいをつけることもなく無造作に始めました。
ものの喩えでもなんでもなく、文字通り、鼻の奥に集まる膨大な情報をより分けていく。それらをふるいにかけ、必要なものだけを取り出していくのです。
グリフィン「…………。イナ・ポートランドはいま、クッションのきいた椅子にすわってる。脚を前後にぶらつかせているせいで、彼女自身の匂いが前後にバラ撒かれてる。食事の時間なのか、彼女のそばまで食べ物の匂いが近づいてきた。カートで運ばれてきたんだと思う。おそらく揚げ物、魚、種類まではわからない。彼女はおれを気にしないよう努めながら食べはじめた」
大佐がモニターを覗き込み、イナの様子を確認している間、沈黙がありました。
ハウラ大佐「…………。なるほど」
ハウラ大佐「マルボロ少尉。スノウフイールの身体検査を」
マルボロ「了解」
グリフィンがイナの様子を知るために、何かカラクリを使ったのではないか。たとえば、小型モニターのたぐいを隠し持っているのではないか。
そういったことが疑われて、グリフィンは全身を調べつくされました。靴のなかまで検分されて、彼が何も持っていないことが証明された。
ハウラ大佐「……まいったね。言葉通り、匂いを感じたのか。配膳された揚げ魚やら、イナ・ポートランド自身やらの」
グリフィン「そうです」
ハウラ大佐「なにが起こっている、きみの身に」
グリフィン「わかりません。医務室で目醒めた時に全身のキズが消えたあたりから、何かがおかしい気はします」
グリフィンは顔色がよくありませんでした。
遠くにいるはずのイナの匂い。揚げ魚の油の匂い。イナが座っている椅子の中綿の、頭痛がするような合成繊維の匂い。肌の匂い、骨の匂い、血の匂い、逆さに剥かれた魂の匂い。
それらが入れかわり立ちかわり鼻腔の奥で膨れあがり、グリフィンの平衡感覚を奪っています。
嗅覚を二倍に研ぎ澄まそうと心に決め、試みた結果がコレなのだとしたら、甘んじて受けようとは思っている。
それにしても世界とは、こんなにも脳髄をえぐる臭気にあふれた場所だったか?天井はあんなにも、落ちてきそうに低かったか?壁はあんなにも、目に痛いオレンジ色だっただろうか?
イナ「ねえ、あたしの声聴こえてる?グリフィンはあたしがゴハン食べてるって言い当てられた?」
大佐のイヤホンがイナの声をとらえて、
ハウラ大佐「パーフェクトだ」
その後も、ハウラ大佐はイナと何か話しているようでした。
しかし、グリフィンはもう興味を持てなかった。
押し寄せてくる匂いの渦、匂いの高波、匂いの雪崩。
それらを脳みそから締め出すために、力ずくで嗅覚を遮断する。その大仕事を成功させなければ、この場で卒倒するという気がしていた。
ハウラ大佐「……大丈夫かね」
グリフィン「問題ありません」
意志の力で鼻を麻痺させながら、グリフィンは表向き、いつもの平然とした顔つきのままでした。
よくも悪くも、そういう青年でした。
ハウラ大佐は、グリフィンの心の奥底を覗き込むように言いました。
ハウラ大佐「きみの言葉を信じるには、契約が必要だ。きみが手を差しのべ鼻を使って【ポートランドと軍のあいだの架け橋になる】と言いながら、我々を欺いて、ポートランドの逃亡を手引きするということも考えられる。きみには賢さと勇気がある。必要と思えば我らを裏切るだろう。きみはどのようにして、いざという時に友情より命令を優先することを……我々への真の忠誠を誓うのだね?」
グリフィン・トワイライトは、黙って手を持ち上げました。
いぶかしむ大佐の前で、
その手のなかに、いつか見た刃が現れました……。
つづきます!
*
SS4枚目(ノートパソコンを覗き込む大佐)のポーズは、
よりお借りしております。いつもありがとうございます。
(他のポーズは自作です……)
Thanks to all CC creators!
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