本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」です。
ポートランド邸のそばで倒れ、身動きが取れなくなったグリフィン。
彼の【短くも長い追憶】が、終わろうとしています。物語の舞台は彼の少年時代から、現在の世界にもどろうとしています。
それでは、本日もまいりましょう!
(最終加筆修正:2023年10月10日)
*
ストレンジャービルの夜は更け、冷えこみは増していました。
ポートランド邸のそばに倒れたグリフィンは、浅い息をしています。
彼の目から、追憶の膜が離れていきます。
グリフィン(イナ・ポートランドの姿を見たのは、その雪の朝が最後だった)
グリフィン(その日の太陽が沈むまで、おれは彼女を捜して街じゅうを駆けまわったが、見つけることはできなかった。十四日後、彼女が初舞台だと言っていた日。おれはかき集めた金でメトロに乗り、ウィロークリークに向かった。ロイヤルやポーラスターたちを、都会に残して)
グリフィン(イナから劇場の名前を聞いていなかったのは、致命的だった。おれは公衆電話の電話帳を使って劇場のリストを作り、楽屋口のドアを片っ端からたたいた。二日ぶんの金がつきて弟妹の許にもどるまでの、それがおれの限界だった。……結局、おれはイナを連れもどすために、なにかを為したとはいえなかった)
グリフィン(……ほんとうに、今夜は冷える)
身体が動かず、まぶたを閉じることができないグリフィンの目は、乾ききって痛かった。それでも、闇のなかを幻のような影が近づいてくることを、彼の瞳は感じとりました。
グリフィン「…………」
アーモンド「これがもし、物語の世界だったなら」
消え入りそうな声で、アーモンド・ポートランドが言いました。それこそ幻が話しかけてくるようだと、グリフィンは思いました。
アーモンド「でもわたし、怖かった。あなたを窓から見つけたのち、五分間も迷いました。窓からではあなただとわからず、泥棒がいるのではと恐れていた。いつもカフェでお会いしてますよね、グリフィンさん」
グリフィン「…………」
アーモンド「わたしのことが見えますか。お話しできなかったら、右手を上げてください」
グリフィン「…………。見えてる。すまないが、いま何時か教えてくれ」
とつぜん、グリフィンの唇が自由を取りもどして、そのことを尋ねました。
恢復のときが訪れたのです。
アーモンド「九時半です。起きられますか」
…………。
…………。
アーモンド「……手がつめたい。顔色もよくありませんね。ご気分は」
グリフィン「なんともない。冷えただけだ。気にかけてくれてありがとう。……礼をしたいが、日をあらためたいとも思う。きょうは行ってもいいだろうか」
アーモンド「ご無理は、なさらないほうがいいと思います」
控えめな口調でありながらも、アーモンドははっきりと言いました。
アーモンド「どうぞ、わたくしどもの館にお入りください。身体を温めて、ハーブティーを飲んでください。休んだほうがいいと思います」
グリフィン「いや……」
アーモンド「もうすぐ、姉が帰ってまいります。きょうは情報センターのほうまで出かけていたのですけれど、さきほど【帰る】と連絡がありました。姉は尼寺で育ち、看護の心得がある者です。わたしの言う通りに」
グリフィンの目元に深い影がわだかまり、それが次第にうすれました。
アーモンドが「姉」と言ったとき、グリフィンはイナ・ポートランドの話だと見誤りそうになった。その思いちがいは、彼の心臓を不吉に波打たせました。けれどアーモンドが言っているのは、次女ネモフィラのことでした。
グリフィン「わかった。世話になる」
あかりを掲げるアーモンドにつづいて、グリフィンはポートランド邸にもどっていきました。
彼の胸にはひとつ、考えがあったのです。
*
つづきます!
*
アーモンドが持っているキャンドルは、
よりお借りしております。いつもありがとうございます。
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(ポーズは、自作です……)
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