本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
ポートランド邸そばで倒れたグリフィンと、彼を助けた、ポートランド家の令嬢アーモンド。彼は彼女の厚意を受け取り、屋敷に招き入れられます。しかしグリフィンのほんとうのねらいは、失踪したイナ・ポートランドについての手掛かりを、アーモンドから聴き出すことでした。
それでは、本日もまいりましょう!
(最終加筆修正:2024年4月11日)
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グリフィン「おれが何者なのか、話すことはできない。仕事のうえでの義務がある。だが言えるのは、おれはイナ・ポートランドにも、あなたにも、二番めの姉上ネモフィラにも、害をなすような真似はしないということだ。これは職務上の宣誓ではなく、それをうわまわるおれ自身の意志です」
このグリフィンという人は、信じるに値するのだろうか。
アーモンドがそれを考えている間、沈黙がありました。
アーモンド「…………。わかりました」
一分がすぎた頃、彼女は老貴婦人のように頷きました。その顔つきは決意した人のものでしたが、唇の色は蒼白でした。
アーモンド「こちらにおいでください。お見せしたいものがあります。……まだ身体がおつらいようでしたら、わたしが肩をお貸しします」
目にもやわらかな手が差しのべられ、グリフィンはちらりとほほえみました。
グリフィン「歩ける」
アーモンドは階段をのぼり、まっすぐにまえを向いて進んでいく。
たどり着いたのは再び、廃墟のようなあの部屋でした。
アーモンド「ここはわたしたち姉妹の長女、イナの部屋です。……いいえ、部屋でした。姉がこの屋敷で暮らしていた頃、このあたりに天蓋のついたラベンダー色のベッドがあり、こちらの壁には姉の好みで、バレエ公演のポスターが十二枚も貼られていました。窓には、房飾りのついたカーテンが掛けられていました」
アーモンド「グリフィンさんのおっしゃる通り、姉は十七歳の時に家出をしました。【自分の人生を勝ち取らなきゃいけない】と言って。姉がなにを求めていたのか、わたしにはわかりません。……ともかく、姉が家を離れたあとも、わたしたちはこの部屋を掃除し、花を飾り、いつ姉が帰ってきてもいいように整えていました。わたしが寄宿学校に移ってからは、町長さんがその役目をたいせつに引き継いでくださって」
アーモンド「でも、ある時期から部屋は荒れはじめました。天蓋のついたベッドは、あっというまに朽ちはてて、このような姿に」
アーモンド「……まるで、一夜にして百年のときが過ぎるのを見たような思いがしました。壁に貼られたバレエダンサーたちのポスターは、ボロボロになって剥がれ落ちました。いくらお掃除しても、ぴかぴかに磨こうとしても……部屋が腐り落ちていくのを止められないのです。……こんなことを申しあげても、信じられないかもしれませんが」
グリフィン「いや」
アーモンド・ポートランドは「部屋が朽ちていくのを見ると、彼女自身の全身に痛みが走る」という表情でした。
アーモンドの話は、確かにとっぴです。
けれど【つくり話もしっぽを巻いて逃げ出すような、とっぴな現実が存在する】ことを、グリフィンは経験で知っていました。それに、この部屋の引き裂かれたようなざらついた質感は、グリフィンに不快な刺激をあたえます。
グリフィン(……ゆうがた忍びこんだときよりも、この部屋の……怪物……のような匂いが濃くなっている。魔力なのか。それとも)
五感を研ぎ澄まして違和感の正体を探りながら、グリフィンは別のことを尋ねます。
グリフィン「思いあたることはないのか。部屋がこうなったきっかけや……こうなったのと同時期に、なにか別のできごとが起こったとか」
アーモンド「じつはひとつ、あるのです」
アーモンドは【それこそが話したかったことだ】という口調でした。
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つづきます!
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(ポーズは、自作です……)
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