なんだか最近、何日か間があくのが定番化してしまっておりますが……
本日はまた、しれっとして「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
軍施設に幽閉されながら、小さなイナの心はさまざまに揺れ動きます。今のグリフィンには、彼女を見守ることしか出来ません。時間はゆっくりと流れ、そしてイナは、ついに重要な告白をします……。
それでは、本日もまいりましょう!
*
ずっと言えなかった。あたし、子供がいるんだよ……
しぼり出すようなイナの告白は、グリフィンにはまるで、外国の唄のような不思議な調べに聴こえました。
それでも彼は、パズルの最後のピースが落ちてきて、カチリとはまったような納得を感じていました。【興行主のものになることと引き換えに、舞台に立たせてもらう】と言ったイナ。そう言って姿を消したイナ。
彼女に子供が生まれていたとしても、何もおかしくはない。こんな未来が来ることを、彼はどうしてか嗅ぎ取っていたのです。そんな予感を持っている自分を自覚していて、あえて触れずにいたのです。
???「舟は岸辺を離れた……」
ふいに、かつて誰かが諳(そら)んじていた詩の一節が、グリフィンの頭に蘇りました。
そう、舟は岸辺を離れた。
もう戻ることはできない。
自分とイナの幼年時代がまたひとつ終わりを迎えたことを、グリフィンはハッキリと理解しました。
グリフィン「……息子さんの名前は」
落ち着いた優しい声で、彼は尋ねました。
イナ「名前は、トリー。巻き毛の可愛い男の子。……父親は、ワットさん……憶えてるかな、あたしの初舞台の時の興行主だよ。あのあと、舞台の中身も手掛けるようになって、最近では脚本も書いてた。つまり、今はあたしの夫だけど」
ひどく言いにくそうに、彼女は打ち明けました。
グリフィン「ああ」
グリフィンには、奇妙な感覚がありました。
目の前の小さなイナがするすると背丈を伸ばして、二十二歳の娘に戻っていく。彼女は広くて明るい場所に立っている。
時の精霊によるいたずらなのか、グリフィン自身の魔力が見せている幻影なのか……ともかく、イナが話を続けました。
イナ「夫……もう夫じゃないか。あたし、リコンしたんだった。あたしの身体がどんどん小さくなって小学四年生くらいのサイズになった時、ワットさんは言ったんだよ。【子供の姿になったおまえを、妻として扱うつもりはない】」
イナ「必要ないと言われたところで、あたしは追いかけてすがりつくなんて御免だった。そんな情けない姿を見せるなら、舌を噛み切ったほうがマシだった。……あたしたちは、離婚した」
グリフィン「…………」
これまで靄のなかに隠れていた彼女の人生……彼女の【私的な】人生が、グリフィンの前に立ち上がってきました。
グリフィン「トリーは、今どこに」
イナ「ワットさんが連れて行った。あたしたちの別れは、街道(ハイウェイ)沿いのガソリンスタンドだった。舞台が打ち切りになって、一座が解散になったあと……ワットさんは数人の元団員とあたしとトリーを車に乗せて、荒野を走った。まるで、何かから逃げてるみたいに」
イナ「ガソリンスタンドで団員ふたりとあたしを降ろし、彼は言った。【トランクに自転車が積んである。それを使って近隣の町まで走れ。あとは好きなように生きろ】あたしは言った。【今のあたしの身体じゃ、大人用の自転車なんか乗れない。小さくなってから、乗ったことないもの】」
イナ「ワットさんは冷たかった。【じゃ、歩くんだな。とにかく、これで終わりだ】……本当に、それで終わりだった」
イナ「あたしは歩いて歩いて、歩いた。あたしが車から降ろされた時、トリーは眠ってた。あの子は、あたしがどうやっていなくなったか知らない。あの子が目を醒ました時のことを思うと、恐ろしかった。【ママ、どこ?】……あの子はそう言って、おかしくなったみたいに捜しまわったと思う。……いいえ」
イナ「本当にそうかしら?あの子があたしを捜すなんて、そんなことがあり得る?……あの子を産んだあと、あたしは舞台に復帰することに必死で、一度だってあの子を顧みなかった。あの子の世話は衣裳係のフラヴィアがしてたし、あたしはあの子を抱きあげようとすら思わなかった。……次第に、あの子はあたしに近寄らなくなった」
イナ「あの子があたしを捜しまわるなんて、あたしに都合のいい夢だったかもしれない。そうでしょ?」
グリフィンを見上げる彼女の目には、熱に浮かされたような光がありました。
グリフィン「…………」
彼は、答えることが出来ませんでした。彼女の言葉は彼の記憶を刺激し、これまで思い出しもしなかった子供時代の……イナとは何の関係もない……一場面が、呼び起こされていました。
……ああ、そうだ。
彼は母親を捜してる。
押し黙っている彼のかわりに、誰かがぽつりと言いました。
……つづきます!
*
今回お借りした、おもな作品
SS2枚目(背を向けたイナのイメージ)の桜吹雪は、
よりお借りしております。
SS14~15枚目(花を手に行く母ディアナ)のブーケは、
よりお借りしております。
皆様、いつもありがとうございます。
Thanks to all MOD/CC creators!
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