すっっかり間があいてしまいました。
本日は、何食わぬ顔で「グリフィンと欠落の姉妹編」をお送りしますー。や、ほんとに、お久しぶりでございます……!(サボってた訳ではないのですが、準備に異様に時間が掛かり……!平伏!)
軍の施設で「被験者として扱われる」日常を受け入れつつある、幼児の姿になってしまったイナ。状況を打開したいと願いながら、何も出来ないグリフィン・トワイライト。ふたりの穏やかな対話は続きますが、分岐点はすぐそこに迫っていました……。
それでは、本日もまいりましょう!
*
その後も、グリフィンとイナの面会は【散発的に】行われました。
グリフィンのほうから出した面会申請は大抵却下されましたが、イナがそれを望めば多くの場合、要求は通りました。
どうやら上層部は、イナ・ポートランドに【高い価値】を見出しているようでした。
被験者として膨大な数の検査に臨み、執拗な尋問にさらされ続ける一方で、彼女はお姫様のように扱われ始めていたのです。病室には、家具や花・お菓子までもが運び込まれました。
イナ「……あたし、今までこんなに【もてはやされる】ことってなかったな」
ある日の面会で、イナはぽつりと言いました。
イナ「実家ではお父さまが厳格すぎたし、お父さまが亡くなったあとは、おばあちゃまとケンカばっかりだったから。……家を出たあとは、生活するために必死だったしさ」
グリフィン「……そうか」
最近では【話し相手の役目】に徹しているグリフィンが、自分の意見はさておいて相槌を打ちました。イナのために働くことが出来ず、事態が膠着した以上、それが最善の途(みち)でした。しかし彼はまだ、諦めずに出口を探しています。
……それはそうと、彼が彼女の身の上話を聴くのは初めてでした。
ステージに立っていた頃の彼女がブロマイドを発売したりして、それなりの人気を集めていたことは、上官を通じて聞かされています。でもそれは、彼女の望む【もてはやされる】とは違ったのでしょう。
イナ「ただ、まぁ、出会った頃のあんたみたいな苦労は、あたしはしたことがないからね。屋根も食べ物もあったし、あたしがこんな【あまちゃん】なことを言うのは、あんたに失礼だったかもしれない」
少年時代のグリフィンを思い出したらしく、イナがちょっと真面目な顔をして言いました。
グリフィン「気にしない」
イナ「……そうなの?【あの頃のあんたは、ひどい状態だった】って断定するなんて、そっちのほうがあんたの誇りを傷つけたかと、気をまわしちゃった」
グリフィン「どちらでもいい」
いちいちキビキビと即答しながら、グリフィンは別のことを考えていました。
グリフィン(……監獄にも似たこの場所で、ぬるま湯のような日々を送っていて、彼女はそれで満足なのか?おれはそれで満足なのか?……こんなものは【生きている】とは呼べない。本当に生きたいと願うなら、おれは彼女を担ぎあげ、今すぐこの施設から脱走するべきではないのか?)
しかし、そんなことをしても意味がないと、彼の【破滅的な冷静さ】が教えていました。幼児を連れた若い男。こんなコンビで、どうやって身を隠しながら生きていけるというのでしょう。
そして、彼自身が【家で待つ弟たち】を棄てて生きるなど、到底出来ない。当主としての義務を投げ出すことも、彼の誇りが許さない。
結局、袋小路に迷い込んでいるのはイナよりも、グリフィン自身なのかもしれません。
イナ「……コワい顔するのやめてよ。そこのラマ取ってくれる?」
グリフィン「ラマ」
イナ「ん。あんたの横の棚にあるやつ。あたしの足じゃ、このベッドから降りるのもひと苦労なんだ」
…………。
…………。
イナ「……はは。こうやって、のんびりぬいぐるみを可愛がるなんてのも、あたしの人生で初めてだよ。……この子、あんたの上司?の人が差し入れしてくれたんでしょ?」
グリフィン「そうらしい」
イナ「あたしは子供の頃から、ぬいぐるみを集めて並べるような可愛げのある女の子じゃなかったけど……それでもこうやってプレゼントされてみると【自分が大切にされてるような気分】がするもんだね。……。…………」
イナはふいに声を詰まらせ、何かを耐えるように自分の手を見つめました。薬指の先のほうにある「ささくれ」を、異様な集中力で見つめています。
待つべきか動くべきかと天秤にかけて、グリフィンは動くほうを選びました。今のイナは、なんだか悲嘆のあまり、彼女自身の手に噛みついてしまいそうに見えたのです。
グリフィン「……自分を追い詰めないほうがいい場合もある。話なら、いつでも聴く。あなたが望むなら、職員の休憩室でストロベリーミルクを買ってくる。……あなたが好きな、いちばん甘いのを」
イナ「違うの」
威厳のようなものを放出して、イナはグリフィンを拒絶しました。
イナ「違うの。泣きたいと思ってるワケじゃない。ただ、ぬいぐるみやら玩具(おもちゃ)やらを見ると【あぁ、コレをあの子にあげたら喜ぶだろうな】と思ってしまう。あたし、あの子に何かを与えたことなど一度もなかったのに。二度と会えなくなった今、そう思う」
誰の話をしている?
そう尋ねたい気持ちでいっぱいでしたが、グリフィンは自制しました。余計な問いが、今【本当の意味で】急激に開こうとしている彼女の心を、閉ざしてしまうかもしれない。それは、なんとしても避けたいことでした。
結局、グリフィンの重い沈黙は、かえってイナにプレッシャーをかけたようでした。彼女はすすり泣き、しぼり出すように告白しました。
イナ「あんた今【誰の話?】って思ったんだね。あたしの息子の話をしてるんだよ。まだ二歳になったばかりなの。……ずっと言えなかった。あたし、子供がいるんだよ」
グリフィン・トワイライトはまるで【初めて訪れた外国で立ち尽くしているような、不思議な心持ちで】目の前の少女を見つめていました……。
つづきます!
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今回お借りした、おもな作品
SS10枚目(タバコを吸うマルボロ少尉)のポーズは、
よりお借りしております。いつもありがとうございます。
Thanks to all MOD/CC creators!
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