本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
イナ・ポートランドは「魔法の鏡」をくぐり抜けて、何やら高い塀に囲まれた場所にたどり着きます。一方、自宅にて危機を感知したグリフィンは、弟ロイヤルの力を借り、急速に行動を起こそうとしています。そして……
それでは、本日もまいりましょう!
(今回、画像が多いので重いかもしれません……!)
*
グリフィン「……時間がない。ロイヤル、力を借りる。おまえの能力が必要だ」
兄の言葉に、ロイヤルは耳を疑いました。
兄はロイヤルと引き比べても、はるかに優れた魔法使いです。かつて、兄がロイヤルの魔法を頼みにしたことがあったでしょうか?
ロイヤル「何をする気さ」
兄に「アテにしてもらえる」誇らしさはありましたが、それよりも今は不穏な雰囲気が勝ります。
兄がロイヤルの力を借りたがるほどの非常事態とはどのようなものかと、身ぶるいしたのです。(「いいや、これは武者ぶるいだ」と、ロイヤルは自分自身に言い聞かせました)
グリフィン「うしろを向け」
ロイヤル「?」
グリフィン「おまえが背負っている魔法陣を借りる」
ロイヤル「!」
*
一方、その頃……
イナ「……どこ、ここ?」
とつぜん闇のなかから吐き出されたイナは、高い塀に囲まれて、ぽつりと立っていました。
彼女は戸惑い、左右を二度確認しました。それから息を吸って、先刻のフードの男を大声で呼ぼうとしました。しかし、自分は「魔法の鏡」とかいうモノに飛び込んでまで外の世界に逃れようとした身の上なのだから、と思いとどまりました。
こんなところで声を発して誰かに見つかってしまって、またあの病室に連れ戻されるなんて、たまったものじゃありません。
今立っているこの場所がどこなのか、イナにはまるでわかりませんでした。もしかすると本当に、あの施設の外に逃れることが出来たのかもしれません。淡い期待を抱きながら、用心深くあたりを検分します。しかし二分後、彼女はこう結論づけました。
イナ「……ここ、あたしがいたシセツの庭じゃないかな。窓から見えたレンガ塀によく似てる」
イナ「……ううん、それだけじゃない」
彼女はふいに眉間を押さえて、
イナ「……あたし、ここを知ってた」
イナの意識が白くなり、いつか見た光景が、水晶体のなかに浮かび上がりました。彼女がよく知る青年と、彼女自身の姿です。
イナ(この庭に、グリフィンがあたしを連れてきたことがある。物言わぬ人形みたいだったあたしを。この庭を白い鳥がとんで……そして、グリフィンはあたしを揺り起こした。あたしは、ここで目醒めたんだ)
イナ(……今の今まで、この庭のことを忘れてた。大事なことはいつだって忘れてしまう。グリフィンは本当に、あたしに献身してくれた)
イナ(グリフィン、ありがとう。ごめんね。今はあたし、自分の力で前に進んでみる)
より詳細に調べてみたところ、施設の建物のなかに戻る扉はあっても、外につながる門はなさそうでした。小さな裏木戸のようなものでさえ、ありませんでした。
イナ「この構造、防火の法律から見て問題はないの?」
そんなふうに、幼児の姿にそぐわないことを毒づいて、
イナ「これ、のぼれるかな……」
イナ・ポートランドは、危険な逃亡を決意しました……。
*
トレーラーパークに、少年の高い声が響いています。
ロイヤル「おれの【紋章】を使って、おれじゃなくてグリフィンが転移(ジャンプ)する?そんなやり方、聞いたことないぞ……!?」
【転移】とは、もっとわかりやすい言葉で言えば、長距離瞬間移動の魔法のことです。
ロイヤルの背中には、他のどんな魔法使いも所持していない特別な魔法陣【梟の紋章】が刻まれています。
それは、或る先祖の女性がロイヤルの前につかのま現れ、そして黄泉の国へと去る間際……ロイヤルのために遺した贈りものでした。
(※ロイヤルと裸足の魔女編 より)
ロイヤル「そりゃそうだけど、でもこの紋章、おれが知っている人物をおれが思い浮かべて、その人の名をおれ自身が唱えると、その人の許に転移する……ていう【条件付き】発動装置だぞ?何度も実験してみたから、間違いないんだ!」
グリフィン「それがどうした。一時的におれがおまえを制圧して、おまえの意識を塗り替えたうえで、おれの声で唱えれば問題ない。行くぞ」
ロイヤル「あーもう!」
シャーロッタ「グリフィン様!ロイヤル様!」
シャーロッタ「すごい魔力です!どうなさいましたか……!?」
グリフィン自身の異様な魔力の膨張を感じ取り、精霊シャーロッタが駆けつけました。
シャーロッタ・ニュームーンはあるじのその言葉だけで、何か非常な事態に際していることを理解しました。その理解の速さは、兄弟と共に永い時間を過ごし、兄弟の言動について知り尽くしていることの表れでもありました。
シャーロッタ「わかりました。どのような冒険に赴かれましても、面(おもて)を上げ、万端手抜かりなくお進みください!」
グリフィン「ありがとう」
グリフィンは弟の魔法陣に、自分の魔力を流し込みました。陣の問いかけに答えて、みずからの生まれ・みずからの名を告げました。そうして、魔法陣の支配者に成り代わりました。
グリフィン「ロイヤル、とぶぞ」
ロイヤル「わかった!」
グリフィン「リトル・イナ・ポートランド」
グリフィンは、目的地の名をそう指定して……
グリフィン・トワイライトと弟の姿は、彼らの住居から消え去りました……。
つづきます!
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