本日はまた【グリフィンと欠落の姉妹編】ですー。
グリフィン・トワイライトは「敵」を退け、深夜の闘争は終わり、日は昇りました。すべてを見ていたフードの女をグリフィンは捕らえ、フードをはぎ取ります。暴かれた顔立ちは、グリフィンの幼なじみ・ハンナそのものでした……。
それでは、今日もまいりましょう!
※今回、非常に軽いものですが流血表現があります。苦手な方、ご注意ください※
*
グリフィン「…………。ハンナ……?」
グリフィンは訝しげな声で呼びました。女は憎しみのこもった目で、彼を見つめています。
…………。
…………。
空白。
グリフィンはどう振舞うべきか、めずらしく即座に決めかねていました。目の前の女は、グリフィンの目には間違いなく、幼なじみのハンナ・ミナキに見える。
しかしこの女には、ハンナが持っているはずの【親しみを感じさせる雰囲気】・彼女特有の【おかしみ】がありません。それどころか、人間の気配というものがありません。
確かに目の前に座り込んでいるのに、まるで【いない】みたいに感じられるのです。
フードが脱げた女「無作法な男ですね。女の魔力に鼻をつっこんで、魂のすみずみまで嗅ぎまわって検分するなんて」
グリフィン「おれの目が、おまえをハンナだと判断する。どうしても、そう見える。だがおまえには、彼女の匂いが無い」
フードが脱げた女「あの女と一緒にされるのは、心外です」
女は昂然と立ち上がろうとして、顔をしかめました。グリフィンに叩き落された時に、脚を打ったらしい。グリフィンは微動だにせず、冷然と見下ろしています。
女はフッと息を洩らして、
フードが脱げた女「そんな眼差しには意味がない。わたくしにあなたを害することなど出来はしないが、今はあなたも何も出来ない。あなたに力は残っていない。あなた自身の魔力が内向して、あなたの肉体を喰い荒らしているのが視(み)えます」
女の声色には嘲笑と、かすかな恐れがまだらになっていました。
グリフィン「…………」
フードが脱げた女「またお会いしましょう」
女がくるりと身体をまるめると、その身体が灰色に硬化し、指先から塵のように崩れ去ります。そうして、女はみずからを解体し、グリフィンの前から消え去りました。
それが、逃走でした。
グリフィン「……行った。終わりだ、今日のところは」
イナ「…………」
グリフィン「…………」
イナ「…………。えっ」
イナはパチリとまばたきをして、
イナ「……今の、ぜんぶ夢?トリーが落ちてきたのも、グリフィンがふたりいたのも、あたしが鏡にとびこんで病室から出たのも、ぜんぶ夢?だってそうじゃないと説明がつかないほど、いろんなことが起こってる」
グリフィン「夢じゃない。あなたはここにいる。おれもここに立ってる」
イナ「……そうだよね。うん、そうだ……」
グリフィン「…………」
イナ「……ごめん、グリフィン」
グリフィン「なぜ謝る」
イナ「あたしが病室から出ようとしなければ、あんたはこんなケガをしなかった。あんたはいくらか事情に勘づいてる気がするし、あたし自身何がなんだかわからないけど、あんたが闘って消し去ったあの男は、あたしが呼び寄せてしまったような気がする。詳しい話は省くとして、あんたにそっくりなあの男は、トビラから出てきたでしょ?あのトビラは、あたしが作ってしまったんだよ」
グリフィン「知ってる」
グリフィンが、彼自身と瓜ふたつの男を封じ込めたことにより、グリフィン自身も痛手を受けていました。グリフィン自身の【自壊】が進んでいたのです。刃物を差し込まれたわけでもないのにどんどんキズが拡がっていくのは、異様な光景でした。
そしてまた、あの男の刃を受けたことによるキズも、浅いとは言い難かった。
グリフィン「気に病む必要は無いと思う。たぶん、あなたがどう行動しようと、今夜はこうなった。あなたは連中に利用されただけだ」
それが事実だろうと思って述べた結果、グリフィンの言葉は慰めからほど遠いものになりました。良くも悪くも、そういう男でした。
イナ「あいつら、何」
グリフィン「わからない、おれにも本当のところは」
イナ「……人を呼ぼう。あんたのキズをなんとかするのが先。……あたしたち、ここでこんなに大騒ぎしてたってのに、どうしてシセツの誰も駆けつけないんだろ。いつもはうるさいくらいカンシされてるのに」
グリフィン「連中が張った結界が薄れつつある。そろそろ誰か到着する」
イナ「え?」
グリフィンが目を向けた曲がり角のほうに、イナも目をやりました。見慣れた【制服】が駆けてきます。
ムーア「スノウフイール!生きてっか!」
グリフィン「無事だ」
マルボロ「侵入者は」
マルボロ少尉が、まずそれを言いました。
グリフィン「ふたり。ひとりは説明しがたい場所に追いやった。ひとりは逃亡中です。軍の力であれを捕縛するのは無理だ」
マルボロ「施設内のネットワークがダウンして、すべてのゲートが閉鎖。防火扉も締まり、監視カメラはすべてサンドストームという体たらくだった。復旧まで百五分掛かったという訳だ。これだから機械は信用できん。きみはどのようにして、この場にたどり着いた?」
グリフィン「話すと長い」
マルボロ「よかろう、時間はある。そして、そちらが脱走者という訳か」
イナ「…………」
グリフィン「事情がある。彼女の言い分を聞くべきだ」
マルボロ「今日のわたしの仕事は【傾聴】、それで一日が終わりそうだな。とにかく、この庭(パティオ)を封鎖する。スノウフイール、きみはまず止血だ」
イナ「あっ……、グリフィン!」
問答無用で連れ去られそうになりながら、イナが声をあげました。
グリフィン「なんだ」
それがマルボロ少尉の指示である以上、グリフィンに【イナを放せ】などと言うことは出来ません。
イナ「あたし、今日ほど【後先考えない自分】を痛感したことはない!あんたが傷ついたのも、わけがわからないこの夜の事件も、全部あたしのおこないの結果だと思う!でも、今日のことで得たものがある!あたしは……!」
イナが言いたいことを言い終わる前に、彼女は連行されていきました。
朝が来た庭に、グリフィンひとりを残したまま。
つづきます。
次回から、エピローグです……!
*
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