本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
この世界にゴタゴタが尽きることはありません。それでも、再び「小さなイナ」との面会に漕ぎつけたグリフィン。彼は彼女の役に立とうと知恵を絞りますが、肝心のイナの反応は冷淡なものでした。事態は袋小路に入ります。今しばらくは、ふたりの動向に視点を固定してみます……
それでは、本日もまいりましょう!
*
イナ「どっちの選択も、大差ないね。あんたに出来ることは、何もないよ……」
イナ・ポートランドの酷薄な評価は、そののち暗鬱な重みを伴って、グリフィンの胸に居すわることになりました。それでも彼は面会の終わりに、念を押すことを忘れませんでした。
イナ「…………」
グリフィン「…………」
ストレンジャービルの日が沈み、また昇ります。昼は三度訪れ、グリフィンはそのうちに一度、面会申請を出しました。四日目の午後、グリフィンは再び呼び出されました。
ガヴォット「グリフィン・スノウフイール、出頭してください。面会許可です。どうやら、あのお嬢ちゃんからも【鶴のひと声】が上がったようですね」
…………。
…………。
グリフィン「…………。呼んだか」
イナ「……呼んだけど、いきなり入ってくるなんて」
グリフィン「ノックはした」
イナ「そう……?聞いてなかった……」
イナはどうしてか【心ここにあらず】の様子でした。
グリフィン「…………」
グリフィン「……何か、話があるんじゃなかったのか。あなたがおれを呼び出したらしいと聞いた」
イナ「……別に、とくには。あたしがあんたに面会したいと言ったのは本当だけど。……ただ、毎日エライ人たちの顔ばっかり見て、埒の明かない話ばっかりしてるんじゃ滅入るからね。たまには別の顔が見たいと思ったら、あんたくらいしか思いつかなかった」
無礼といえば無礼な言いようでしたが、グリフィンにとってそんなことは問題ではありませんでした。イナは元気がありません。そしてイナへの尋問は、今も続いているのです。
グリフィン「食事はとってるのか」
イナ「立場が逆になった」
グリフィン「…………?」
イナ「あの頃、あんたが食べてるかどうか心配するのは、あたしの役目だった」
グリフィン「……そうだった」
イナはちょっとほほえんで、
イナ「食べてるよ。クサいメシだと思いつつ、イヤイヤながらもね」
グリフィン「状況に変化は」
イナ「別に、とくには。……昨日、エライ人にこう言われた。あたしの身体を検査すること・あたしの身体が小さくなった原因を調べることは、世界のためになるって。今の世界には、あたしみたいな症状で苦しんでる人がいっぱいいて、あたしを研究することはその人たちを救うことにつながるって」
イナ「……だったら、あたしはもう、この施設でエライ人たちの言いなりになるよ。どっちみちこの身体じゃ、もう舞台には戻れやしない。終わったんだよ、あたしの人生は」
イナは自虐的に笑いました。
グリフィン「それが、あなたの本心なのか」
射抜くような問いかけ。それはまた、彼のいつもの【詰問口調】でもありました。即座に、イナがぴしゃりと言いました。
イナ「見透かすような言い方はやめて。ヒトの心を読んで断定する、みたいな言い方は、相手の逃げ道をなくしてる」
彼のいつもの素直さに、イナは幾分機嫌を直して、
イナ「あんた、世界のために生きたいと思ったことはある?」
グリフィン「……いや、一度もない」
あらためて考えるまでもないことでした。
弟を連れて故郷の森を出た日から、グリフィンはずっと【自分の運命を切り開く】ことだけを胸に生きてきました。ノーマン家の当主を継ぎ、一族の問題と格闘している現在も【自分の個人的な闘いを続けている】という意味では、何も変わっていません。
イナ「エライ人は言った。【イナ。きみについての研究が、みんなを救うんだよ】……その言葉は、あたしにはこの上なくあまやかに聴こえた。あたしはずっと自分の踊りのことだけ考えて、自分のために生きてきたの。でも、ここにいるあたしが世界のためになるのなら……」
イナの声は尻すぼみになり、彼女はついに口をつぐんで、物思いに沈んでゆきました。
???「おまえに出来ることは、何もない」
どこか遠くの暗がりで、見覚えのある影が言いました。
……つづきます!
*
今回お借りした主な作品
SS9~10枚目(少年少女時代のグリフィンとイナ)の「りんご(手持ちアクセサリー)」は、
よりお借りしております。いつもありがとうございます。
Thanks to all MOD/CC creators!
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