きょうから、お話の新シリーズをはじめようと思います。
おかげさまで、ようやく準備が整いました。
いわゆる「全然待ってなくてもやってくる、星空シムズの時間」です。
*
このお話は、プレイ記録をお話仕立てにしたものではありません。こちらは、おもにシムたちのポーズ画像を挿絵にして、うちの世界独自の設定なども盛り込んでストーリーが展開していく「シムズ小説」とでも呼べそうなシロモノです。
今回のシリーズではポーズだけでなく、生活モードの活き活きとした一瞬などもうまくとらえて、挿絵に取り入れていきたい所存です。
皆さま、
【幕間きみここ】(略称)も、どうぞよろしくお願い致します!
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それでは新シリーズ、まいりましょう!
きみは、あしたもここにいる(幕間)
序文
ブラックバードは破滅をうたう
黄昏がくる その前に
ブラックバードは再起をうたう
虹をかき消す そのために
世界に五番目の夜が来て
きみはまだ 銀鈴(ぎんれい)の道をゆく途中
第一の話 (その1)
ストレンジャービルから遠く離れた、明るい海。
明るい海の、そのまた遠く。
スラニ諸島の離れ小島で、きょうもひとりの若者が目を醒ましました。
ハンナ・ミナキ。
二十三歳、おうし座。
離れ小島に鎮座する「灯台荘」の責任者。
灯台の光を維持しながら小さな農園を世話する、灯台守見習い。
いま始まろうとしている「第一の話」は、彼女と彼女の家族の物語です。
コハク「ソニアおねえちゃん、ハンナおねえちゃん、行ってきます」
おもてのガラス戸を勢いよく開けて、ランドセルを背負った女の子がとびだしました。
ソニア「あらっ。きょうって登校日だったっけ?」
ハンナ「そうだよ。変更になったって、金曜日のプリントに書いてあった。コハク、お弁当はカウンターのうえに作ってあるよ。持ってって」
コハク「もうランドセルに入れたよ。行ってきます!」
…………。
…………。
この家の「長女」であるソニアが、頬に手をやって息をつきました。
ハンナ「気にすることないよ。ソニアねえさまがうっかりなら、あたしとかあさまは大うっかりだもん。あたしはきのう、二回続けて冷蔵庫のドアに左手をはさんだ」
ソニア「うぅん……左手はだいじょうぶ?」
ハンナ「いまも手首にくっついてるし、痛くもかゆくもない。ねえさま、もうお掃除はいいから、お稽古しにいってきなよ。屋上(うえ)の水やりは終わってるし、マリーアンヌやにわとりたちの話し相手だったら、あたしがするよ?」
ソニア「うん……」
…………。
…………。
どうぶつたちとの井戸端会議が終わると、ハンナは郵便受けを覗きました。
ハンナ「およ。手紙が来てる」
灯台荘には、毎朝きっかり十一時に郵便屋さんがやってきます。
ハンナ「……あ、グリフィンからだ。待ってた」
ハンナはまず、グラスにたっぷりの氷を入れて、まっかなハイビスカスティーをそそぎ入れました。次にクッションを持ってきて、存分にくつろぐ体勢をととのえました。そこでようやく、しかつめらしい顔をして、封書にペーパーナイフを差しこみました。
ハンナへ。
グリフィンからの手紙は、いつもどおり簡素な呼びかけで始まりました。
ハンナへ。
手紙ありがとう。
ハンナ「どういたしまして。元気?」
目のまえにグリフィンが立っているかのように、ハンナはわざわざ口に出して答えました。
手紙ありがとう。
おまえの農場が変わりない様子で安心した。
こちらも別段変わらない。
ここ数日は、勤労の奴隷のように仕事に没頭していたが、奴隷は解放された。得たものもある。それについては、会って話す。
次の土曜日、農場に伺う。
ポケットの携帯電話がふるえたので、ハンナの目が文面を離れました。ハイビスカスティーをひと口飲んで喉の調子をよくしてから、電話を取りだし、通話アイコンをつつきます。
壁際でピアノを弾いていたソニアがその様子に気がついて、鍵盤から手を離しました。
ハンナ「はーい、もしもし!」
携帯電話「…………」
ハンナ「もしもーし?」
電話の相手は、なにも言いません。
ハンナ「もしもーし、かあさま?……かあさまだよね!?おくち!お口をもっと、電話に近づけて!」
携帯電話「…………」
ぶつり、と文字に書けそうな音がして、電話は切れてしまいました。
ハンナ「やれやれ、もう」
落ち着きはらって鼻を掻き、ハンナはグリフィンの手紙にもどろうとしました。
ソニア「フリーダおかあさまから?」
ハンナ「うん、そのはず。画面に【かあさま】って表示されたよ。かあさまが携帯電話を持つようになって二年たつけど、やっぱりかあさまはキカイが苦手だねぇ。電話でおはなしするだけで、ひと苦労だもん。きっと用事があるんだろうから、日暮れ頃かあさまのところに行こうかな」
ソニア「電話口で、なにもおっしゃらなかったの?」
ハンナ「聴こえなかった。かあさま、なんかヘンなボタンでも押しちゃったのかなぁ」
ソニア「ちょっと心配。おかあさま、なにか困ったことが起きてるんじゃないといいけれど」
ハンナ「だいじょぶだよ、いまの時間なら、とうさまもおうちにいるもん。ほんとに困ったことがあったなら、苦手な電話であたしに連絡なんかしないで近所の人に頼むはずだしね。カハナヌイさんとか」
フリーダ・ミナキとその夫は、スラニ諸島の北西側に住んでいます。
ソニア「うーん……」
ハンナとソニアの「おかあさま」に対する心の態度がこんなにも違うのには、ちょっとした理由がありました。
ハンナが「おかあさま」ことフリーダ・ミナキから産まれ、十六歳までフリーダの許で暮らしていたのに対し、ソニアは古くからミナキ家と親交のある名門・ブレイク家の出身です。
両家の友情の証として、ブレイク家の娘は十八歳になるとミナキ家に預けられます。そうして伴侶を得るまではミナキ家の子として扱われながら、伝統的な踊りや歌・楽器の演奏を学ぶのです。ミナキ家はほんの百年前まで、詩と音楽をたずさえて舟で旅する「芸人」の一族でした。
若い娘らしさを発揮して、母親をぞんざいに扱うことがあるハンナ。「お世話になっている家のおかあさま」として、フリーダを気遣い、手伝い、敬意を払うソニア。それでも、ふたりがおなじようにフリーダを大切に思っていることは確かなのです。
*
とにかく。
ハンナは途中になっていた手紙をもう一度手にとって、グリフィンが語る近況報告の世界に入りこんでいきました。
次の土曜日、農園に伺う。
式典の打ち合わせには、フリーダ様にも参加して頂いたほうがいいと思う。彼女のときの式典は典礼に従ったものだったと聞いているから、その時の様子をよく参考にしたうえで――
ハンナ「およ。電話鳴ってる?」
ハンナがまた目を上げて、大声で言いました。
ソニア「え?」
ソニアがまた、すぐにピアノを弾くのをやめました。ハンナにもソニアにも電話のベルが聴こえなかったのは、ソニアが表情ゆたかな大音量で協奏曲を練習していたためだったのです。
ベルはまだ鳴っていた。
今度はハンナの携帯電話ではなく、キッチンの電話が呼んでいます。
しかし、ハンナが猛然と突進して優美な受話器をかっさらう前に、ベルはふつりと鳴りやみました。
ソニア「フリーダおかあさまだったのかな?」
ハンナ「どうだろうねぇ」
そのときは、ただそれだけの話でした。
つづきます!
*
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