本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」です。
グリフィンはまだ、長い回想のなかにあります。イナ・ポートランドの導きで、妹を医者に診せることができた少年時代のグリフィン。その甲斐あって、妹は危機を脱しました。彼は診療費の相談(支払い)のため、無免許医・フリントロックの部屋を訪ねます……
それでは、本日もまいりましょう!
(最終加筆修正:2023年10月6日)
*
グリフィンの姿は、スパイス・マーケットの一角にありました。
グリフィン「フリントロック先生の家は……ここだ。アパートの四階だったな」
…………。
…………。
グリフィン「…………?」
金髪の男「……ありがとう、先生。見て、傷はきれいに消えたわ。よかったら今夜、もういちど来てもいい?シャンパンと桃のケーキを持って。【とくべつな】お礼がしたいの」
フリントロック「そうしよう。八時に部屋で」
金髪の男「待っていてね。じゃあ、あとで」
グリフィン「…………」
金髪の男「あら、先生のところ?」
グリフィン「…………」
グリフィン「……失礼します」
フリントロック「来たか、時間通りだな。茶でも飲むか。ショウガの入った薬湯もある」
グリフィン「いらない。支払いの話をしにきました」
フリントロック「そうか。おまえは多少、雑談というものを覚えたほうがいい気がするが……まぁそれはただの、わたしの意見だ。すわりなさい」
グリフィン「…………」
フリントロック「そうだ、そこに掛けて」
フリントロック「そう。上を見て。顔をあげていなさい」
…………。
…………。
グリフィン「…………?」
グリフィン「――――!!」
少年は、怒りにまかせて男をつきとばしました。
だが、栄養がたりず血のめぐりの悪い彼の腕力で、壁のような大男をどうにかできるというものではなかった。反動で少年自身が、椅子ごとうしろに吹きとびました。
フリントロック「危険だな、ケガをするぞ」
グリフィン「自分を売るつもりはない!!いくら恩人であっても!!」
顔が青ざめ、肩がわななくほどの激昂を見せて、グリフィンは怒鳴り散らしました。
ひ弱な少年だと受けとられて、つけこまれたこと。
大男の吐息に、あまったるい香水の匂いを感じたこと。
それが、部屋のまえですれちがった【患者】の残り香であること。
むこうのテーブルに、女物の絹の手袋が残されていること。
こんな下衆な男に、妹の診察をまかせたこと。
それらの現実が混ざりあい、めまいを引きおこすほどの怒りを、グリフィンにもたらしました。
フリントロック「……悪かった。なぜわたしが破門になったのか。おまえのようなむじゃきな若者でさえ、わたしの血肉から堕落の悪臭を嗅ぎとるのだと、おまえはこの身のくだらなさを教えてくれるな。だが、おまえの揺るがぬ誇りは、おまえ自身を援(たす)けるだろう」
グリフィン「!?」
フリントロック「許せ。おまえは、わたしが遊び人だと知ったのだろう。わたしは頽廃しきっていて、思わせぶりに見えるのだろう。そうだとわかっていれば、誇り高いおまえを恐れさせ、そんなに怒らせるような近づき方はしなかった。もっと注意が必要だった。わたしはただ、おまえの目を……」
グリフィン「僧侶じゃなかったのか」
グリフィンは遮るようにして、収まらない怒りをたたきつけました。
フリントロック「そうだ。かつて戒律そのものを信仰し、やがて戒律への疑念が生まれ、さいごに戒律を破り棄てた。わたしが山を追放されたのは、そのためだった。だがそれでいい。女神のほんとうの教えは、戒律とは別のところにあると知った」
グリフィン「どうでもいい。さっさと支払いの話を終わらせてくれ」
フリントロック「そうしよう。もう一度、窓辺にすわりたまえ。そこのランプもつけてくれないか。……どうも、蛍光灯の光ではよく見えない」
グリフィンは相手をにらみつけ、動こうとしませんでした。
フリントロック「すまなかった。このナイフを渡しておこう。次にわたしへの憤りを感じるようなことがあったら、これでわたしの喉を突いても構わない」
…………。
…………。
グリフィン「……いつまで、こうしてる」
グリフィンは窓辺にすわり、フリントロック医師はペンライトを手にして、グリフィンのまえに立っていました。医師はグリフィンの顔をのぞきこみ、ライトを上げたり下げたりして、グリフィンの目のあたりを照らしています。
フリントロック「しずかに。おまえの魔力を感じとり、おまえの眼球の芯を視(み)ている。真夏の空を閉じこめたような、青い瞳だ。おまえは骨の髄まで魔力に汚染されているが、やはりこの瞳だけは染まっていない。生まれたときから、この色か」
グリフィン「……憶えてないが、そうだと思う」
フリントロック「正確な答え方だな。……グリフィンよ、率直に問う。おまえははるか昔、北方の森に姿を消したという英雄ライオネル・トワイライトの一族のものではないのか」
グリフィン「…………!!」
グリフィン「…………。…………。その質問に答えることはできない。おれは顔を持たない、影の存在だ」
フリントロック「質問を替えよう。おまえは【世界の生まれ変わり】について、なにか伝え聞いてはいないか」
グリフィン「…………?」
フリントロック「……いや、わかった。立ちなさい」
グリフィン「…………。報酬の話はどうした」
フリントロック「報酬はもう、受け取った。はるか昔、霧のように姿を消した一族がどう生きたのか……その真実を、わたしはきょう知ることになった。おまえ自身はなにも知らない、ということもわかった。充分だ」
フリントロック「グリフィンの名を持つ若者よ。弟妹(きょうだい)たちのところまで、気をつけて帰りなさい。いつかきっと、おまえはおまえの役目を知る。その日までは、したたかに生き延びるのだ」
その日、フリントロック医師の部屋でかわした会話のことを、グリフィンはだれにも言いませんでした。
*
つづきます……!
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今回のポーズ
SSの3枚目(フリントロックと金髪の男)のポーズは、
よりお借りしました。いつもありがとうございます!
Thanks to all MOD/CC creators!
And I love Sims!
(その他のポーズは、自作です……)
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