本日は、また「アーモンドちゃんとグリフィンのお話?」の続きです。
「高台の邸宅」……ポートランド邸に潜入したグリフィンを、魔法疾患の発作が襲いました。物音に気づいたアーモンドちゃんがやってくる直前、彼はかろうじて邸宅を脱出したのですが……
それでは、本日もまいりましょう!
(最終加筆修正:2023年10月4日)
*
グリフィン・トワイライトが、ポートランド邸のそばで倒れています。
だれひとりそのことに気づかぬまま、町に夜がやってきました。
グリフィン(…………。長いな)
身体の自由を失くしてから二時間が過ぎても、恢復のときは訪れません。
グリフィンは月の位置を見て、時間の感覚を保っていました。
ときをもてあますと、人の精神はかえって活発になります。
グリフィンの瞳のうえに、またぞろ追憶の膜がかかってきました。彼の心は目に見えぬ旅に出て、記憶のなかを歩き始めました。
…………。
…………。
???「あんた、家出少年?」
グリフィン「…………」
???「あんたの顔色、とっても悪いよ。おおげさじゃなく、十日間モノを食べてないような顔をしてる。ね、ちょっと待っててよ」
グリフィン「…………」
???「はい、これ!」
グリフィン「……なんだ」
???「なんだじゃないよ。見りゃわかるでしょ、たいやきだよ!コモレビ山から来た販売カーが、広場に出てたの。このサンマイシューノじゃめずらしいことだし、このお店のはとってもおいしいんだ。【みどりのたいやき屋さん】っていうお店だよ。ほら、ボーっとしないで一匹とって!二匹でもいいよ!」
???「ね、もう一回訊くよ。あんた、家出少年?」
グリフィン「……そうかもしれない。旅をしてる」
???「旅。いいね、すてきだよ。あたしもいつかこの都会(まち)を離れて、どこまでもつづく旅に出るんだ。砂漠のなかのオアシス・スプリングスや、北方に広がるさいはての森にだって行くと思うよ」
グリフィン「…………」
???「ね、いい?あたしがあんたを食べさせたのは【ホドコシ】なんかじゃない。あたしは、憧れたんだよ。路地裏から路地裏へ流れて暮らしてるような、あんたの目つきにさ。あたしもそうやって、野良犬みたいに生きたいんだ」
グリフィン「…………」
???「ふふ。【無口】ってコトバは、あんたみたいなのを表すためにあるんだろうね、いつもは、全然おしゃべりしないってワケじゃないんでしょ?」
グリフィン「……あなたと共通の話題がない。初対面だ。食事には感謝してる」
???「あら、上品なコトバづかい!あんた意外と、いいとこの坊っちゃんなのかもしれないね。……あ、答えなくていいの!センサクする気はないんだよ。あたし自身も、自分のことをアレコレ訊かれるのは好きじゃないしさ」
グリフィン「…………」
???「ねぇ、なんでもいいんだけど、うずくまったまま食べるのやめてよ。あたし、犬にエサやってるみたいじゃない。あんた、名前は?」
グリフィン「……そんなつもりじゃなかった。名前は、グリフィン」
???「あったりまえじゃん!犬になったつもりだったら、びっくりするよ!……でもグリフィンか、神話めいた響きがあるね。大地をとらえるおおきな爪も、風をつかまえる白い翼も、両方持ってる名前だね」
???「ね、グリフィン。あたしたち、あしたも会うだろうね。あんたが当分、この街にいるならの話だけれど。あたしの名前は、イナ・ポートランド。あしたもあさっても、この都会(まち)のどこかでバッタリ会おう!約束なんかはしないでさ!……じゃあね!」
…………。
…………。
グリフィン「…………。嵐のような女だった」
グリフィンは無感動に、下を向いてつぶやきました。
*
つづきます!
*
たいやきとたいやきの入れ物のaccは、
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