本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。
いやはやいやはや、どうにか「11月に投稿した欠落の姉妹編が、たったの1本だったよ」というオソロシイ事態に陥るのを避けることが出来ました……。滑り込みで、今月2本目のお話更新です……ほっ。
フードをかぶった「謎の男/謎の女」の力を借りて、軍施設を抜け出そうと試みるイナ・ポートランド。イナは「謎の男/謎の女」の魔力を使い、立ちはだかる高い壁に【トビラ】を呼び出しました。彼女はその扉から、どこへ行こうとしているのか?
イナの許へ急ぐグリフィンは、まだ到着しません。現実と幻影が交差する、魔力の夜が始まりました……。
それでは、本日もまいりましょう!
*
イナの前に現れたのは、彼女が探し求め、渇望していたもの……外の世界へとつながる【トビラ】でした。
イナ「…………。…………!」
急にひどい疲れを感じて、イナはその場に崩れ落ちました。まるで、この扉を呼び出すことによって「全体力を持っていかれた」かのように感じました。
フードの女「支えが必要ですか」
今一度差し出された女の手を、
イナ「ううん、自分で立つ」
イナは敢然と断って立ち上がりました。膝に手をつっぱり、腰を浮かせようとするだけで、グランドピアノを持ち上げるくらいの力が必要でした。
フードの女「心を使ったのですから、疲労を感じるのは当然です。想うことは、熱量を必要とするのです」
イナ「わかったわかった。いちいち教科書みたいなこと言わなくていいよ、もう。あたしは行く」
フードの女「どうぞ」
楚々としてたたずむ扉に向かって、イナは一歩踏み出しました。そして立ち止まり、もう一度その灰色の目で、謎の女をとらえました。まがりなりにも助力してくれたこの女に対し「ありがとう」を伝えようとしたのです。
しかし、イナはそうせず、考え込みました。
イナ「…………」
フードの女「…………」
イナ「あたし、ここでお礼を言わないほうがいい気がする。まだ全然、すべてが終わったワケじゃないし、あんたが何を思ってあたしを助けたのかわからないから。でも、あんたがあたしの前に現れたことは忘れないよ」
フードの女「…………。どうぞ」
フードの女は、まるで女王に対するように、膝を折る典雅なお辞儀をしました。「わかった、もう行け」と、そう言っているのです。
イナは再び前を向き、植え込みをかき分けるようにして、扉の取っ手を掴みました……。
*
扉は重さを感じさせず、意外にも、絹のようななめらかさで開きました。
イナの顔に、夜風が吹きつけます。彼女は初めて……この幼子の姿になってから初めて、塀の外の世界を目にしました。
イナ「ここは……」
イナ「ストレンジャービル……。あたしの、ふるさと……」
自分がストレンジャービルの町のどこか……少なくとも、ストレンジャービルの「近郊」と呼べる地点に囚われていることには、イナはとっくに気づいていました。
あぁ、いいえ。施設の者たちは、イナに【この閉ざされた区画が、どのような地域に存在しているか】などという重要な情報を与えたりはしなかった。
しかし、そういったことは、隠し通せるタイプの問題ではありません。この町特有の空の色、この町特有の植物、
何より、グリフィンがトリーの情報を求めて「ストレンジャービル郊外とこの施設を、気軽に行き来していた」ことから、この施設が町のどこかに存在していることは明白でした。
(それでいて、施設の所在地を明言しなかったのは、グリフィンが「上の者」に口止めされているためだろうと、イナは推測していました)
ストレンジャービルの絶景を前にして、イナはまず、少女時代に夢を追ってこの町をとびだした時のことを思い出しました。
縁を切った夫によって、この町にほど近いガソリンスタジオに置き去りにされた日のことを思い出しました。
舞台に立っていた頃、出番前に決まって訪れた目が眩むほどの緊張。遠い都会の雪の朝。様々な記憶と想いがイナに押し寄せ……そして、通り過ぎました。
イナ「とにかく、行こう。あたしは逃れた。トリーを捜して、どこへでも行ける」
イナ「…………?」
だんだん、イナはあたりの様子がおかしいことに気づきました。
空に何か……星でも雲でもないものが浮かんでいます。目がへんになったのかと思って、イナは目許をゴシゴシとこすりました。
イナ「浮いてる……」
世界の終わりの掃きだめのように、夜空のまんなかに街灯やらベッド、自動車までもが漂っている。
その波間を今、ひと粒の光がこぼれるように、しかしまっすぐに落ちてくるのが見えました。
イナ「…………ッ」
イナ「トリー!!」
見間違えようもない小さな息子の姿に、イナは叫び声をあげました。
彼女はついに、たったひとりの出会いたかった者に、出会ったのです……!
つづきます!
*
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