遠い冬の夢(スラム街にて)

2020年9月22日火曜日

★ヨルの秘密編 ヴァトーレ家 チョン家

t f B! P L
こんにちはー。

本日は、また「ヨルの秘密」編ですー。
家賃を賄うため、リリス・ヴァトーレさんに自分のブラッドを買ってもらうことにした少年・ヨル。ヴァトーレ家の寝室で、彼はリリスさんの抱擁に身を委ねました。そして……

それでは、本日もまいりましょう!



リリス・ヴァトーレは、ヨルのブラッドを丁寧に飲み干しました。

ヨル「うわ……なんか、足許がフワフワする」

ヨルの声音は、足許以上にフワフワしていました。

リリス「貧血でしょう。すこし休みなさい。大丈夫、おまえが眠っている間に押し入ったりしない」

リリスさんの澄んだ声が、いつになく快く響きます。

ヨル「部屋を使ってもいいの?」


リリス「棺桶で眠りたいというのなら、そちらに案内するけど」


ヨル「……それは、やめとく」

リリスさんのぞっとしない冗談(?)に、ヨルは苦笑いしました。

リリス「おやすみなさい」


リリスさんが寝室を出て行ったあと、ヨルはそろりとベッドに上がりました。彼は居心地悪そうに寝返りを打ったり、リリスさんに噛まれた首筋を触ったりしていましたが……やがて、眠りのなかへと、さかさまに落ちてゆきました。


ヨル・ヘイデンは、夢を見ていました。彼は微睡みのなかで子供時代にタイムスリップしていて、いつものように路地裏で飢えているのです。


どれくらい時間が過ぎたでしょうか。

気がつくと、ヨルの目の前に女の人が立っていました。女の人は、冷たくも興味深そうな眼差しで、ヨルを見ています。


ヨル「……なんか用?」

ヨルはしゃがれた声で、横柄に訊きました。

???「今日、」

と、女の人が口を開きました。耳に心地よい、澄んだ声です。


???「今日、わたしは占い師に【重要な出会いが訪れる】と言われた。それほど信じていた訳ではない。こんな子供が、その出会いをもたらすとは思わなかった」

女の人は、感慨深そうに吐息を洩らしました。

ヨル「…………?」

彼女が何を言っているのかわからず、ヨルは目をせばめました。


???「おまえ、こんなところで何をしているの」

ヨル「……今日が過ぎてゆくのを待ってるだけ。やることもないし、行くところもないから」

そんな子供は、このスラムにはいくらでも居ます。

???「家族は?」

ヨル「いない。少なくとも、今は」

???「名前は」

ヨル「ヨル・ヘイデン」

女の人は、思案顔をしていました。そして、ヨルに向かって優雅に手を差しのべました。


???「おいで。おなかいっぱい食べさせてあげる」

訳の分からぬ大人に簡単について行くほど、ヨルは無邪気ではありませんでした。しかし、鳩尾(みぞおち)がえぐれるほどおなかがすいていて、目が回っているのも事実でした。

ヨル(どうにでもなれ。いざとなったら、逃げりゃいいんだ。ぼく、足は速いんだから)


ヨルは女の人の手を取りました。彼女の手は指が長く、ひんやりしていました。奇妙なふたりは黙って互いを感じながら、世界の終わりのようなスラムを歩いてゆきました……

つづきます!


今回のポーズ

SSの4枚目(ベッドに横たわるヨル)

以上1枚のポーズは、
よりお借りしました。いつもありがとうございました!

また、回想シーンのスラム区画は
ユキ豹 様(Twitter)
よりお借りしました。いつもありがとうございます。

Thanks to all MOD/CC creators!

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