本日は、また「ロイヤルと裸足の魔女編」ですー。
魔法の国の書庫に手を触れた瞬間、書庫管理システムからの「アクセス」を受け、疲れて眠りこんでしまったロイヤル坊っちゃん。坊っちゃんの様子を見にきたモーギン先生も去り、新しい朝がやってきます。そして、遠く離れたスラニの灯台荘では、ハンナ・ミナキにグリフィンから緊急の電話が掛かってきて……?
それでは、本日もまいりましょう!
*
グリフィン「急にすまないが、訊きたいことがある」
ハンナ「うん、なに?」
グリフィン「ハンナ・ミナキ。おまえは幼い頃、母親に連れられておれの一族の屋敷に滞在したことがあったはずだ。それも、一度ではなく。そして、おまえは大人たちの会談の間ほっておかれ、暇つぶしに屋敷の図書室に入り浸っていたと聞いた。子供の頃のおまえがひどい活字中毒だったことは、おれも覚えてる。おまえはあの頃、屋敷でどれくらいの量の蔵書を読んだ?」
ハンナ「変わった質問だねぇ。数えてた訳じゃないけど、百十三冊は読んだかな?」
ハンナちゃんは、妙に具体的な数字を挙げて答えました。
というのも、彼女は祖先であるクスク・ミナキの特殊能力を受け継いでいて、自分が生まれてから今日までに体験したすべての出来事を、ひとつも忘れることなく記憶しているのです。
グリフィン「おまえが読んだ百十三冊の中に、魔法の刺青について書かれたものが存在しなかったか?もっとハッキリ言えば、探しているのは、梟の意匠の刺青についてだ」
ハンナ「梟……?うーんと、待って。今、記憶の引き出しを整理してみるから」
ハンナちゃんは目を閉じ、こめかみに人差し指を当てました。その眉間にしわを寄せ、記憶の渦の中心を覗き込むこと十五秒。再び目を開けた時、ハンナちゃんはこれ以上ないほど晴れやかな顔をしていました。あまりに晴れやかな気持ちになったためか、その手から携帯電話がポーンと飛んで、砂浜に落下してしまったほどでした。
ハンナ「あっ、グリフィンごめん。もしもし?スカッとしすぎて電話をブン投げて落としちゃった。今、ボフッて音がしたのはそのせいだよ!あんたの言った通り、あたしは確かに、梟の刺青についての御本を読んだことがある。……ううん、本当は読んだとは言えないんだ。だってその本は、半分以上精霊文字で書かれてて、あたしには何が何だかわからなかったから。でも、見出しは普通の文字だった。八十二ページめ、下の段落に【魔法陣の項・4の14ー梟・青鷺・駒鳥】という題があった。御本そのもののタイトルは【喪失の思索・下巻】、著者は、S・フランカ。あんたのご実家の図書室の、Bの5番の棚に入ってた。今もそこにあるかはわからないけど」
常軌を逸した正確さですらすら諳んじるハンナちゃんに、電話の向こうのグリフィンが絶句した気配がありました。
グリフィン「……驚いた。礼を言い足りない」
ハンナ「はは、大げさだね?なんだかわかんないけど、あんたのお役に立てたならよかったな!……っと、あれ。あれれ?」
グリフィン「どうした?」
ハンナ「…………。あ、ううん。なんでもない。あんたの声が聞けて良かった!じゃ、またね?」
グリフィン「ああ。本当にありがとう。じゃあ」
グリフィン「…………」
電話が切れたあと、グリフィンは液晶画面に目を落として、厳しい顔をしていました。
グリフィン「……最後のほうだけ、ハンナの声のトーンが一段高かった。本人はなんでもない様子で話していたが、たぶんおれに何かを気づかせまいとしたんだと思う。…………。問題が起きていた、のか……?」
しかし、グリフィンの考えごとは打ち破られました。携帯電話が再び震えだし、画面に弁護士の名前が表示されたのです。そう。ノーマン家は今、訴訟を抱えているのでした。グリフィンは短く息を吐き、機械的に通話アイコンをタップしました。
グリフィン「もしもし……?」
一方、スラニの灯台荘では……
ハンナちゃんが砂浜に携帯電話をほうりだしたまま、ぱたりと倒れていました。
ハンナ「あーーー。目がまわる……。久しぶりに、記憶の渦に呑みこまれちゃった……。渦を覗きこんだの、久しぶりだったからなぁ。あたしがひっくり返ったの、グリフィンに気づかれてないといいな……」
ソニア「…………?ハンナちゃん……!!」
母屋で洗い物をしていたソニア姉さまが、大急ぎで飛び出してきました。
ソニア「ハンナちゃん、どうしたの!?……びっくりした。また、記憶の大波にノックアウトされちゃったのね?」
ハンナ「あ……、姉さま。悪いけどあたしを持ち上げる前に、そこに落ちてるあたしの携帯電話も拾ってもらえる?……すぐに良くなるから、心配しないで。ちょっと無造作に覗きこんじゃって、珍しく反動が凄いだけ。あと、ポケットからキャラメルも落ちた気がするから、それも拾ってね?キャラメルについた砂は、払ってね?」
ソニア「はいはい。……ふふ、その冷静さが残ってるなら、大丈夫かな?」
倒れて身体がぐにゃぐにゃになってるハンナちゃんを「ひょいっ」と抱え上げるソニア姉さまの、意外な腕力が頼もしいです。
ソニア「え、意外なの?わたし、コハクちゃんをおんぶしたハンナちゃんを抱き上げて、八十メートル走をやったことがあるのよ?うん、借り物競争だったの」
…………。
まことでございますか。
ああ。一瞬本気でびっくりしましたが、ハンナちゃんが思ったより大丈夫そうなので、心底ほっとしました。プレイヤーは今度は、グリフィンの様子を見に行くことにします。彼も賢くて繊細な性格ですから、ああ見えて相当心配してますよ……?
というわけでノーマンのお屋敷に戻ってきたら、忙殺の二文字にふさわしく、何やら形式ばったお手紙をしたためているグリフィンの姿が。彼は今、親戚から送られてきた「転居願い」に許可を与えているところなのです。ノーマンの一族は、代々当主が定めた土地に隠れ住み、当主の許可がなければ移り住むことも出来ません……。
グリフィン「……ハンナ・ミナキはおそらく、身体に変調があったんだと思う。もしかすると記憶の探索は、彼女の身体に負担をかけるのかもしれない。自分が持つチカラが自分自身に負担をもたらすことがあるのは、おれも経験上知ってる。悪いことをした」
ああ、やっぱり全部気づいてます。ときどき自分を追い詰めやすいところのある彼が、自分を責めてしまいませんように。論理的に見てみれば、彼は自分の依頼がハンナちゃんにどういう結果をもたらすか、予想できなかったわけですからね?プレイヤーだって知らなかったし……。
グリフィン「……電話を掛け直して、ハンナの状態を確かめたい気持ちは、勿論ある。だが、今もし彼女が消耗して寝(やす)んでるとしたら、邪魔したくない。おれのほうは問題ない。この判子を押せば終わりだ。……よし。二時間ばかり暇ができるな……。ハンナが教えてくれた【喪失の思索】という本をまず探したいが、その前にすこし行くところがある。本当なら、昨日行こうと思ってた場所だから」
グリフィンはお手紙に封をして使用人に渡すと、上着をひっかけて外に出ていきました。お屋敷のまわりは深い森ですが、迷うことなく歩いて行き……
不思議な、穴倉のようなおうちにやってきました。
玄関をノックすると、建物そのものがリィンと鳴って、次いで生き物のように喋りはじめました。
建物「誰だい?」
グリフィン「ばば様、おれです。グリフィン・トワイライト」
建物「お入り」
グリフィンはノブを引いて建物のなかにすべりこみ、地下へ地下へと下りていきました。古い木の階段を踏む、グリフィンの靴の音だけが響きます。
そして、建物の一番深いところで眠っていたのは……?
シャーロッタです。
ふわふわと宙に浮かび上がったまま、グリフィンが目の前に立ったというのに気づいた様子もありません。彼女は今「精霊としての肉体を構成する、水のエレメントを洗浄しているところ」で、意識がないのです。
グリフィン「…………」
話しかけるでもなく見上げていると、グリフィンとシャーロッタを包み込んでいる穴倉状の建物が、またもや言葉を発します。
建物「見てたって起きやしないよ。時が満ちるまではね」
グリフィン「はい」
建物「心配するこたぁないよ。あたしが看ているんだから」
グリフィン「はい」
そう言いながらも、グリフィンは暫くそこに留まっていました……。
そして……
魔法の国のロイヤル坊っちゃんも、まだ目覚めません……。
つづきます!
*
【今回お借りしたポーズ・CC】
ハンナのひらめきポーズ
Andrew`s Studio 様
ハンナ・ソニアのポーズ
sandy-sims 様
グリフィンのポーズ
新生まるきぶねスローライフ 様
シャーロッタのポーズ
Kiru 様
グリフィンが持ってるペン
Studio K -creation- 様
その他、多数のMOD・CC・ギャラリー作品のお世話になりました。
すべてのクリエイター様、ビルダー様に、心より感謝しております!
Thanks to all MODS creators and all builders!

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