本日は、また「ロイヤルと裸足の魔女編」です。
そして今回も、ロイヤルの兄・グリフィンの動向を追いかけます。父親に呼び出され、罪のない従姉妹を屋敷から放逐するよう命令されたグリフィン。
さらに父は、妹のポーラスターこそがグリフィンの結婚相手の候補であったという、受け入れがたい事実を打ち明けます。呪われた血脈に今更ながら痛手を受けるグリフィンを、ポーラスターが見つけます……。
それでは、本日もまいりましょう!
それでは、本日もまいりましょう!
庭につづく廊下も夕暮れのように暗くなり、ポーラスターの瞳だけが、燭台の火をうつして輝いています。
ポーラスター「……とりあえず兄さん、ここにいないほうがいいよ。話をするにしろ、つっ立ってるにだけにしろ、ここじゃ使用人たちに見られてしまう。兄さんが望まないお世話を焼かれるよ。温室に逃げよう。お庭の奥に温室があるのは知ってるよね」
ポーラスターはなかば無理やりに、グリフィンの腕を引っぱってうながしました。グリフィンはなにも言わず、妹の速度にあわせて歩きだしました。
ポーラスター「……とりあえず兄さん、ここにいないほうがいいよ。話をするにしろ、つっ立ってるにだけにしろ、ここじゃ使用人たちに見られてしまう。兄さんが望まないお世話を焼かれるよ。温室に逃げよう。お庭の奥に温室があるのは知ってるよね」
ポーラスターはなかば無理やりに、グリフィンの腕を引っぱってうながしました。グリフィンはなにも言わず、妹の速度にあわせて歩きだしました。
温室には、だれもいませんでした。
ポーラスター「ああ、この株はこんなにつぼみをつけてる。あしたの朝には、ふたつほど開くね。庭師のエーミールは冬のあいだ、じつに丹精込めてお世話をしてたらしい。……こっちは、もうすぐ実をつけるんだね」
グリフィン「…………」
ポーラスター「ねえ、グリフィン」
妹が世間話の続きのように言うので、グリフィンは振り返りました。
ポーラスター「なにがあったか言いたくないなら、わたしに話す話す必要は全然ないけど、お父さまが言うことをぜんぶまともに聴く必要は、ないと思うよ。兄さんは、いちどはお屋敷を棄ててロイヤルをさらって、出奔したほどの人なんだから!」
ポーラスター「当主の役目を果たそうと思って耐えしのんでるのはわかるけど、いちいちお父さまの期待に応えてたら、疲れはてて悲しみにくれながら生きることになっちゃう。わたしたちの従姉妹……あのかわいそうなレイニーのように」
グリフィンが妹の顔を見つめていたのは「妹は、どこまで気がついているのか」と思ったからでした。
グリフィン「……ポーラスター。おまえは、レイニーと顔を合わせたことがあるのか。あの、私室に引きこもっている物言わぬ娘に」
ポーラスター「ううん。……あ、でも、レイニーがお屋敷に連れてこられたとき、ちらっとうしろ姿を見たかな。わたしは廊下の燭台を一個ずつ吹き消していく遊びをしてて、おとなたちの気を引こうとしてた。そのとき、お父さまの書斎に入っていくレイニーが見えた。十年以上も前の話。琥珀色の髪をしてて、ひどくやせた子供だった」
グリフィン「レイニーをこの屋敷から追放しろと、親父から命じられた」
打ち明けようと心を決めたなら、一気に核心まで降りていくのがグリフィンでした。ポーラスターの顔が、目に見えて暗くなりました。
ポーラスター「……そう。それは、また」
グリフィン「親父と長老がたの意志がある以上、いまのおれはそれに従って、移住命令を出すことしかできない。くつがえすには知恵がいる。是が非でもレイニーに会って、彼女の意志を確かめる。彼女が屋敷に留まることを望むなら、できる限りのことをして屋敷に彼女の場所を作る」
四歳で屋敷を追放された、というグリフィン自身の経験が、見えない指のように彼の首にかかり、窒息させようとしていました。父がグリフィンを追放したのとおなじように、今度はグリフィンが従姉妹を追放しようとしている。そうさせられようとしている。これが現状です。
グリフィンが妹の顔を見つめていたのは「妹は、どこまで気がついているのか」と思ったからでした。
グリフィン「……ポーラスター。おまえは、レイニーと顔を合わせたことがあるのか。あの、私室に引きこもっている物言わぬ娘に」
ポーラスター「ううん。……あ、でも、レイニーがお屋敷に連れてこられたとき、ちらっとうしろ姿を見たかな。わたしは廊下の燭台を一個ずつ吹き消していく遊びをしてて、おとなたちの気を引こうとしてた。そのとき、お父さまの書斎に入っていくレイニーが見えた。十年以上も前の話。琥珀色の髪をしてて、ひどくやせた子供だった」
グリフィン「レイニーをこの屋敷から追放しろと、親父から命じられた」
打ち明けようと心を決めたなら、一気に核心まで降りていくのがグリフィンでした。ポーラスターの顔が、目に見えて暗くなりました。
ポーラスター「……そう。それは、また」
グリフィン「親父と長老がたの意志がある以上、いまのおれはそれに従って、移住命令を出すことしかできない。くつがえすには知恵がいる。是が非でもレイニーに会って、彼女の意志を確かめる。彼女が屋敷に留まることを望むなら、できる限りのことをして屋敷に彼女の場所を作る」
四歳で屋敷を追放された、というグリフィン自身の経験が、見えない指のように彼の首にかかり、窒息させようとしていました。父がグリフィンを追放したのとおなじように、今度はグリフィンが従姉妹を追放しようとしている。そうさせられようとしている。これが現状です。
おれがそれをやってしまった日には、おれは自分の名を呪うべきだ。と、彼は非常な厳しさで、自分を切りきざみました。忌まわしいくりかえしをここで終わらせ、自由になることはできるのか。
しかしグリフィンは、彼自身の心はさておくべきだと考えました。自分の感情ではなく、レイニーの実際的な問題を中心にして考えないと、根本のところを見失うという直感がありました。
ポーラスター「心配ごとは、それだけ?」
グリフィン「…………」
ポーラスター「やるべきことが定まってるグリフィンは、いつもなら、そんなにおそろしい顔をしない。控えめに言って、死ぬほど疲れてる顔だよ。レイニーが追い出されるのには、なにか特筆すべき理由がありそう」
ポーラスター「たしかに身寄りのないレイニーは、これまでお屋敷を切り盛りしてきたお父さまにとってはお荷物だったと思う。理不尽な移住命令をしょっちゅう出して血族を切り捨ててきたお父さまではあるけど……そういうシンプルな話なら、グリフィンはただ怒れるオオカミのように立ちむかうはず。それだけで……それだけって言ったらアレだけど、それだけで兄さんが、こんなに落ちこむとは思えないから」
ポーラスターはときおり、妙に冴えたところを見せる娘です。
ポーラスターはときおり、妙に冴えたところを見せる娘です。
レイニーがロイヤルの婚約者であった、という話は、父からグリフィンにだけ伝えられた真相です。ロイヤル当人さえ知らないこの一方的な事実を、ここにいないロイヤルをさしおいて、先にポーラスターに話すわけにもいきませんでした。
兄の言葉を待っていたポーラスターが、ふとさびしげに笑いました。
ポーラスター「あぁ、そっか。もしかして、婚姻をめぐるトラブルなのね。レイニーは女の子だから、閉ざされた一族では、その問題がつきまとう……」
グリフィンは、身じろぎひとつしませんでした。
目にかかった前髪をはらい、いちど息を吐くと、やっと身体の力が抜けました。
グリフィン「……おまえの推測どおりだ。みごとだった」
ポーラスター「うん。わたしもレイニーを助けるよ。わたしはちからのないみそっかすだけど、レイニーのためにできることをしたい」
グリフィン「ありがとう、心強い。レイニーの婚姻の事情については、いまは言えないがいつか話す。正直、おれたちの世代にもこの問題がせまってきたと思うと、ぞっとしなかった」
ポーラスター「この問題って」
グリフィン「婚姻の問題。親戚どうしの結婚がしつこく繰り返されるのを見ていると、気が変になりそうだと思うことがある。一族の家系図を見たが、ひどいものだった」
ポーラスターの眼差しが、柔らかくなりました。
ポーラスター「兄さんは誇り高いし、男の子だからね。女の子はけっこう大変だよ?小さい頃から、婚約の話ばっかり。やれ、おまえの将来の夫はだれそれだ。夫となる方にふさわしい娘になりなさい……って。わたしは、お母さまの決めたことになんか従わないけどね?」
グリフィンは絶句し、ポーラスターの目の奥を見つめました。彼の驚きは、きわめて深く苦いものでした。彼は妹への敬意をにじませて。口を開きました。
グリフィン「……知ってたのか、おまえは」
グリフィン「……おまえの推測どおりだ。みごとだった」
ポーラスター「うん。わたしもレイニーを助けるよ。わたしはちからのないみそっかすだけど、レイニーのためにできることをしたい」
グリフィン「ありがとう、心強い。レイニーの婚姻の事情については、いまは言えないがいつか話す。正直、おれたちの世代にもこの問題がせまってきたと思うと、ぞっとしなかった」
ポーラスター「この問題って」
グリフィン「婚姻の問題。親戚どうしの結婚がしつこく繰り返されるのを見ていると、気が変になりそうだと思うことがある。一族の家系図を見たが、ひどいものだった」
ポーラスターの眼差しが、柔らかくなりました。
ポーラスター「兄さんは誇り高いし、男の子だからね。女の子はけっこう大変だよ?小さい頃から、婚約の話ばっかり。やれ、おまえの将来の夫はだれそれだ。夫となる方にふさわしい娘になりなさい……って。わたしは、お母さまの決めたことになんか従わないけどね?」
グリフィンは絶句し、ポーラスターの目の奥を見つめました。彼の驚きは、きわめて深く苦いものでした。彼は妹への敬意をにじませて。口を開きました。
グリフィン「……知ってたのか、おまえは」
おまえ自身が、おれの結婚相手と定められていたことを。
ポーラスター「わたしが候補だった、ってこと?……うん、知ってたよ。というか、その話題はおかあさまのお気に入りだったから、子どもの頃から耳タコだった。……グリフィン本人と、この話をするとは思わなかったけど」
グリフィン「……すまなかった。きょうほど自分のあまさに怒りを覚えたことはない。おまえがそうしたいなら、おれを憎んで構わない」
むしろ感情を抑えた声で、グリフィンは言いました。
ポーラスター「もう、そんな真剣な顔しないでよ。この一族に生まれた以上、いろいろあるのはしょうがないんだから。わたしは、年の近いグリフィンやロイヤルがわたしのきょうだいだったこと、よかったと思ってるよ?そりゃあ年の近い異母兄妹である以上、忌まわしい慣習を持ちだしてくるおとなはいるけど。でもさ、十年間顔を合わせてないようなきょうだいたちだっているのに、グリフィンと仲よくなれたのは幸運だった」
グリフィンとポーラスターは、子ども時代をともにすごしたわけではありません。ふたりが交流を持つようになったのは、この四年ほどのこと。それでも双方が、気の合う相手だと感じていました。
グリフィン「……この屋敷は、牢獄だと思う。だが、おまえはおまえの意志でもどってきて成人の儀式を受け、血族への忠誠を示した。おまえはどうして尽くす、この腐敗した一族に」
ポーラスター「わからないの?」
ポーラスターは口許をゆがめて、ちょっとおかしそうな笑みを浮かべました。
ポーラスター「わたしが成人の儀式を受けたのは、グリフィン兄さんが当主の座に就いたからだよ」
グリフィンの目つきが、射抜くように強くなりました。彼は、妹が言おうとしていることを、明確に理解していました。
ポーラスター「わたしは、一族に忠誠を誓ったわけじゃない。わたしはグリフィンの手助けをするために【しるし】を受けたの。魔力を持っていないわたしが、妻となる以外の方法でグリフィンのそばにいようと思ったら【しるし】を受けて忠誠を示すしかない。だから勇気を出したの。グリフィンなら、腐り落ちていく一族を、変えられるかもしれないから」
ああ、彼女も一族のことを考えていた。
この四年間ずっと、彼女はおれに、希望を見ていた。
グリフィンはそう思ったが、明るい気持ちにはなれませんでした。
彼女の決意を受けとり、彼女の人生の責任をとり、変革への一歩を踏みだすことができるのか。二十二歳のこのおれに。
グリフィンが背負っている問題はますます大きくなり、複雑になっているように、いまの彼には感じられました。
つづきます……!
*
今回のポーズ
新生まるきぶねスローライフ 様
その他、たくさんのMOD・CC・ギャラリー作品のお世話になりました。
すべてのクリエイター様、ビルダー様に、心より感謝しております!
Thanks to all MODS creators!
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