本日は、また「ロイヤルと裸足の魔女編」です。
そして今回も、グリフィン中心の回。お兄ちゃんの動向・第三弾です。
雨のなかの温室で、互いの運命を思いやるグリフィンと妹・ポーラスター。そしてポーラスターは、決定的な告白をします。子どもたちによる一族への反逆が、静かにはじまろうとしています。
それでは、本日もまいりましょう!
追記:今回のエピソードは、長いです。ご注意くださいませ。
(最終加筆修正:2023年10月30日)
*
たしかに、グリフィンはそういう人間だった。彼が黙りこんでいたのは、妹の批評が正確だと認めざるをえないからでした。妹自身の固い決意を取り下げさせるのは難しいと、認めるしかないからでもありました。
グリフィンは、温室の花ばなを見るともなく見めています。彼の目にも、いちばん下の妹の、むじゃきな笑顔がよみがえってきたようでした。紫色のワンピースをひるがえし、街の車止めに手をついては、とびばこのように飛び越えて遊んでいる女の子……。
それでは、本日もまいりましょう!
追記:今回のエピソードは、長いです。ご注意くださいませ。
(最終加筆修正:2023年10月30日)
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ポーラスター「わたしは、一族に忠誠を誓ったわけじゃない。わたしはグリフィンの手助けをするために【しるし】を受けたの。魔力を持っていないわたしが、妻となる以外の方法でグリフィンのそばにいようと思ったら【しるし】を受けて忠誠を示すしかない。だから勇気を出したの。グリフィンなら、腐り落ちていく一族を、変えられるかもしれないから」
ああ、彼女も一族のことを考えていた。
この四年間ずっと、彼女はおれに、希望を見ていた。
グリフィンはそう思ったが、明るい気持ちにはなれませんでした。
彼女の決意を受けとり、彼女の人生の責任をとり、変革への一歩を踏みだすことができるのか。二十二歳のこのおれに。
グリフィンが背負っている問題はますます大きくなり、複雑になっているように、いまの彼には感じられました。
ポーラスター「グリフィンは賢くて、曇りのない目を持ってる。なにより、この一族の子どもとして生まれたことに、苦しんでる。ロイヤルもそう。わたしたちきょうだいのなかでロイヤルだけが、グリフィンと共にあり、グリフィンの置かれた状況を理解してた」
ポーラスター「グリフィンとロイヤルは一族に反抗し、一族から逃亡するというかたちで闘いを挑んだ。わたしはそんなふたりを見て、思ったの。ふたりは、お父さまたちとはちがうんだって。グリフィンなら、なにかを変えることができるかもしれない。そして、ロイヤルはグリフィンを助けるだろう。それならわたしも、ふたりとおなじ道を行こうって」
グリフィン「正直にいえば、一族のしがらみをたたき切り、すべてを終わりにしてしまえばいいと思うことがある」
だしぬけに、グリフィンが話の腰を折りました。
グリフィン「目のまえに、なすべきことがある。おれたちの従姉妹、レイニーを救うこと。簡単な事実だ。おれはこうして自分の意志で一族にもどってきて、おとなしく従うフリもしてる。それでも、すべてを投げ棄ててここから脱出したいという衝動に駆られる。おまえが成人の儀式を受けた理由を聞いて、その気持ちは強まった。……おれを旗頭にして一族に闘いを挑みたいという、おまえの気持ちはわかる。おれ自身も、親父たちのやりかたに屈服する気はない」
グリフィン「だが、いま正面きって争えば、敗北は目に見えてる。そして、おまえはこの闘いに参加するべきじゃない。おまえの一族内での立場では……負けたあとの監獄区送りが目に見えてる。おれやロイヤルはまぬがれても、おまえは山に送られることになるんだ」
ポーラスター「かまわないよ、わたしは」
グリフィンの目つきが、凄絶なものになりました。
彼の勇ましい妹が、さすがにひるんで口をつぐみました。
グリフィン「後悔や怨嗟ではなくあきらかな事実として、やはり、おれは判断を誤ったのだろう。森にもどってくるべきではなかった。おまえとロイヤルとクラリッサを連れて、地のはてまで逃げるべきだったのだと思う」
ポーラスター「そうかもしれない。でも、当主の義務を感じていないフリをして、そしらぬ顔をして逃げだすことなんて、兄さんにはできない。そんな振舞いは、兄さん自身の厳しさが許さない」
グリフィン「…………」
ポーラスター「今回、グリフィンはお屋敷に来るまえに言ったよね。【役目をはたさないと連れもどされるから、そのまえに出向いて働いて、だれからも文句が出ないようにしておく】って。自分じゃ気づいてないかもしれないけど、それだけじゃあないんだよ。グリフィンは、やろうと決めたことは最後まで、徹底的にやる人だった。グリフィンは、やろうと思ったんだよ。それでわたしは、兄さんは信頼に足る人だと、あらためて思った」
たしかに、グリフィンはそういう人間だった。彼が黙りこんでいたのは、妹の批評が正確だと認めざるをえないからでした。妹自身の固い決意を取り下げさせるのは難しいと、認めるしかないからでもありました。
ポーラスターは目許をさわり、むしろ笑顔で言いました。
ポーラスター「……クラリッサがね」
グリフィン「?」
ポーラスター「クラリッサがね、兄さんとロイヤルの呪いを解くために旅してた頃、いつも笑いころげてて楽しそうだった。……そりゃ、そうだよね。ずっと森の奥のお屋敷で育ってきたのに、初めて外の世界に出て、大冒険をしたんだから。わたし、それまでクラリッサがあんなにおしゃべりで、スリルを味わうのが好きな子だったなんて知らなかった」
ポーラスター「……その頃、わたしは思ってた。いつかグリフィンとロイヤルの呪いが解けたら、クラリッサもお屋敷にもどることになるのかなって。あの子をもう一度、あの陰鬱な籠みたいな場所にもどすのはイヤだなって。もちろん、クラリッサ自身がどう思ってたかはわからないんだけどね」
グリフィンは、温室の花ばなを見るともなく見めています。彼の目にも、いちばん下の妹の、むじゃきな笑顔がよみがえってきたようでした。紫色のワンピースをひるがえし、街の車止めに手をついては、とびばこのように飛び越えて遊んでいる女の子……。
ポーラスター「けっきょく、旅が終わったあとも、わたしとクラリッサはサンマイシューノに残った。それでよかったのかもしれないけど、問題が解決したワケじゃない。クラリッサがいまのわたしたちくらいの歳になったとき、あの子は一族と向き合わなきゃならなくなる」
ポーラスター「そのときが来て、一族がいまとおなじように腐敗したままだったら、わたしはイヤだと思ってる。あとから来る幼い者のために、わたしたちはどこかで舵を切らなければならない。それはもしかすると、クラリッサを見てるとむかしを思い出して、記憶のなかにいる幼いころの自分を……森のなかで不幸を感じていたあのころの自分を救いたくなるだけかもしれないけど」
ポーラスター「それでも原動力はどうであれ、やらなければならないと思う。クラリッサのためだからと恩を着せるんじゃなくて、やろうと思った自分のためにやるの。……うん、わたしはわたしの闘いをはじめたい。誤解しないでほしいのは、そのために兄さんを利用したいワケじゃなくて、兄さんにもおなじ志があると感じてるんだけど、ほんとうはどうなの」
グリフィン「……必要なのは、知恵だと思う。なににおいても」
グリフィンが、物思いに沈んだままで言いました。
ポーラスター「…………?」
グリフィン「おまえの話を聴きながら、どうすればこの八方塞がりを吹きとばし、逆転できるか考えてた。おれも、このままでは一族は死ぬと思う。クラリッサだけではなく、おまえやロイヤルにも遺せるものがあるなら遺したいと思うし、闘いつづけたいと思ってる」
不意をつかれて、ポーラスターの目に涙がにじみそうになりました。
グリフィンは近い将来、解けることのない呪いによってすべての感情を失い、永劫の沈黙のなかにその魂を閉じこめられることを宿命づけられている男です。彼はふだん、そのことを話題にあげません。しかし彼は、彼自身の行くすえについて考えつづけているのです。
グリフィン「泣く必要はない。おれはまだここにいる」
ポーラスター「……ごめん。つづけて」
ポーラスターは乱暴に、手のひらで頬を払いました。
グリフィン「おれとおまえに必要なのは、立ち向かうすべを考え抜くこと、考えるのをやめないことだろう。最悪の場合を想定して、おまえが監獄区送りにならないよう、できるかぎりの手を打つ。……もうひとつ必要なものは、時間だ。四百五十年という時間をかけて、入り組んだ成長と延命をかさねた結果、いまの一族の腐敗がある。解決するにも、時間がかかる」
グリフィン「おれの時間だけでは足りないだろうが、悲観するつもりはない。身をひそめて力をたくわえ、おまえの力を借り、味方を増やしていけば、ひとつずつ解決できるかもしれない」
ポーラスターの喉から、息を呑む音が洩れました。
ポーラスター「兄さん。じゃあ」
グリフィン「いまは、一歩を踏みだすだけだ。それしかできないが、それだけならできるともいえる。なすべきことは変わらない。手はじめに、レイニー・クレイフィールドの問題をなんとかする。山積する現実的なやっかいごとに取り組んでいく」
ポーラスター「やっぱりグリフィンは、わたしたちのヒーローだね」
グリフィン「おまえと話したおかげで、身体に血がめぐってきた。立ち向かうにふさわしい値打ちのある問題だと思えてきた。言えるときに言っておく。将来、おれがおれ自身の魔力にとらわれて斃れ、再起不能になったときは、おまえがこの闘いの後継者になるだろう。もちろん、おまえがそれを望むならの話だ」
ポーラスターは冬の湖のような瞳で、兄の顔を見つめました。
彼女の身体にも血がめぐり、意志と勇気が頭をもたげてきました。
ポーラスター「うん、わかった。そういう者になれるように、力を尽くすよ」
それは彼らの、最初の契約が結ばれた日。
もうポーラスターの目に、涙はありませんでした。
つづきます!
*
今回、ちょっとわかりにくいので自分宛のメモを兼ねて、各SSのポーズについて個別にクレジットを付記させて頂きます。
1枚目(ポーラスター・俯瞰)2枚目(グリフィン・俯瞰)3枚目(ポーラスター・アオリ)7枚目(グリフィン・ロング)
以上、4枚は
よりお借りしました。いつもありがとうございます!
4枚目(クラリッサ・回想)5枚目(グリフィン・アップ)
以上、2枚は自作です。
6枚目(すわっているポーラスター)8枚目(ポーラスター・バストアップ)
以上、2枚は「ポーズ不使用」です。
他、たくさんのMOD・CC・ギャラリー作品のお世話になりました。
すべてのクリエイター様、ビルダー様に、心より感謝しております!
Thanks to all MODS creators and all builders!
(↑ ぺしっと押して頂けると、ポーラスターが温室の果物をかじります。たぶん。↑)
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