本日は、また「ロイヤルと裸足の魔女編」ですー。
このお話、三回に渡ってグリフィンパートをお送りしてまいりましたが、今回からまた視点をロイヤルに戻します。孤島にてフォレスティーナと対峙し、「彼女がかつてロイヤルに、何を飲ませたのか」を問いただしたロイヤル。フォレスティーナは筆談で答えます。【わたしは宿命のままに生きる。あなたはその一部である】と。そして……。
それでは、本日もまいりましょう!
*
フォレスティーナと対決したロイヤルは、その後……、どのようにストレンジャービルまで帰ってきたのか憶えていませんでした。頭のなかは、かき混ぜられた煮込みのように混濁し、不快な感覚でいっぱいです。そして記憶の表層では、フォレスティーナのあの言葉が、終わることなく繰り返されているのです。
【わたしは宿命のままに生きる。あなたはその一部である】……
ロイヤル「おれが、彼女の一部……?」
強い疲労を感じて、ロイヤルはお庭のラブシートに身を横たえました。おうちのなかに入る気力はありません。いつもなら迎えに飛び出してくるトトも、なぜか現れませんでした。坊っちゃんは目を閉じ、真っ黒に塗りつぶされた眠りのなかに落ちて行きました……。
ロイヤルが夢のなかで目を開けると、そこには黒いフードを被った男が立っていました。彼は陰鬱に首を巡らせ、張りと威厳のある声で言いました。
???「……食後の祈りを捧げるのはやめにしよう。リノよ。これこそが、生きたおまえと共に過ごす、最後の食事だ。運命への感謝など、我が心のどこにも無い」
その言葉に、凛としたもうひとつの声が、ひどく淡々と答えました。
リノ「不思議なものです。わたしたちはみな、明日の命をつなぐために食べてきた。ならば、明日の朝には死者の国を訪れるわたしは、何のために噛みちぎり、何のために飲み下すのでしょう」
ロイヤルはギョッとして、自分の喉を押さえました。
もはや夢のなかでは聴きなれた、と言っていいリノの声が今、ロイヤルの唇から発せられていたのです。ロイヤルはどうしてか、フードの男の前に立っていて、男はロイヤルを「リノ」と呼ぶのです。
???「やはりおまえは、氷の女だ。恐れはないのか」
男の口許に、はかなげな苦笑が浮かびました。
ロイヤルの唇が、ひとりでに動いて答えます。
ロイヤル(リノ)「どのような者にも、宿命があります。誰もが生まれた時から、自分の役目を背負っている。それを放棄して生き永らえることを選ぶほど、わたしは恥知らずではありません。わたしの命はついえるが、明日の朝にはこの戦いは終わる。そして、我があるじよ。あなたもまた生きるのですから、これ以上望むべきことはないでしょう」
???「おまえこそ、この時代に望まれた勇士。おれには勿体ない妻であり、片腕であった」
ロイヤル(リノ)は男の右手をとり、その手の甲に自分の額をつけて、魔法使い流の古風な挨拶をしました。そして、くるりと身を翻しました。
???「どこへ行く」
ロイヤル(リノ)「出発の支度を。身を清めてまいります」
ロイヤル(リノ)は退室し、砦のなかを歩いて行きます。
と、これまで「金縛りにかかったまま、何者かに操られているかのように」勝手に動き続けていた身体から、急に力が抜けました。ロイヤルはたたらを踏み、壁に手をついて自分を支えました。ロイヤルの魂はまだ、リノの身体の内側にあります。ロイヤルは自分の手を胸の高さまで上げて、よく見ました。黒い古風な袖口からのびる、女のほそい手です。
彼はあたりを見回し、手近な部屋にすべりこみました。
そこそこしつらえの良い部屋でしたが、臭いのするオイルランプや埃っぽい敷物は、何百年も前の部屋のようでもあります。壁には、ゆがんでヒビの入った鏡が掛けられています。
ロイヤルは鏡の前に立ち、フードを取って、自分の顔を覗き込みました……。
…………。
よく知っている顔が、鏡の中にありました……。
ロイヤル「…………」
ロイヤルの身体は、ストレンジャービルの自宅で眠りについています。
夢のなかを彷徨っている心をそのままにして、ふいに、彼の身体は白い光に包まれはじめました。
光は音もなく膨れ上がり、また収束して……、
あたりの暗さが元に戻った時、ロイヤルの背後には一体どこから現れたのか、彼女が立っていました。
フォレスティーナ「…………」
靴を履いていないフォレスティーナの足が一歩進んで、乾いた草を踏みました。
ごくささやかなその音に、ロイヤルの指がぴくりと動きます。このどこか異常な事態を察知して、坊っちゃんがぼんやりと目を覚まします……。
ロイヤル「……長い間、」
フォレスティーナのほうを見ずに、ロイヤルはおもむろに話しはじめました。
その声は、夢のなかに居た時のような女性の響きではなく、いつものようにややハイトーンの少年のもの。彼自身の声でした。
ロイヤル「長い間、おれはきみの物語を夢に見ていた気がする。フォレスティーナ」
フォレスティーナ「…………」
ロイヤル「いや……、違う。フォレスティーナじゃないな」
ロイヤル「リノ。それがきみの、本当の名前なんだな」
フォレスティーナ「…………」
彼女は身じろぎもせず、沈黙していました。
その手がゆっくりと、胸の高さまで上げられます。
ほそく滑らかな指が握っているのは……
刃物、です……。
抑えていた感情を解放するように、彼女は静かに息を吐き出しました。
そして……。
フォレスティーナ「そうです。わたしの名は、リノ」
ロイヤル「……話せたのか、きみは」
フォレスティーナ(リノ)「ロイヤル・バーンウッド。あなたは何者ですか?あなたがその身に移し替えてしまったわたしの力を、わたしは取り戻さなければならない」
ロイヤル「…………!?」
目にも止まらぬ速さで、彼女はナイフを握り直しました。
地面を蹴り、狐のように跳躍して迫ってくる彼女を、ロイヤルは身体をひねってかわしました。草の上を転がり、四時方向に退避。たまたまそこにあったテーブルの脚を逆手につかむと、彼女めがけて力いっぱい投げつけます。
しかし、テーブルは彼女の眼前までとんでいったにも関わらず、目に見えない壁に弾かれたように、ガシャンと音を立てて空中で止まり、そこから横合いに吹き飛びました。
ロイヤル「…………!?」
距離を詰め、まず脚をかけて倒そうとするロイヤルの眼前で、彼女のナイフが袈裟懸けに閃きます。半歩下がって回避。下がった足をそのまま軸足にして回し蹴りをはなつと、それは彼女の横腹にヒットしました。ナイフが彼女の手を離れ、くるくるまわりながら飛んでいきます。
ロイヤルはジャンプして、それを器用に空中でつかみ取りました。
ロイヤル「くっそ、危ないな……!」
悪態をつきながらも、ロイヤルは彼女にナイフを突きつけました。
彼女はポーチの階段に倒れ込み、身体をまるめて咳きこんでいます。
ロイヤル「さあ、これで勝負はついた!どうして、こんなことしたんだよ……!」
フォレスティーナ(リノ)「…………」
彼女はロイヤルを睨み上げて、切れた唇を指で拭いました。
そして、お庭の柵をひらりと乗り越えると、鹿のように駆け出しました。
ロイヤル「待て……!!」
彼女の姿はあっという間に闇の向こうに消えてしまい、再び静寂が訪れます。
ロイヤルは重いため息をついて、ナイフを置きました。自分で投げ飛ばしたテーブルが道の真ん中にひっくり返っていることに気がついて、お庭のゲートを開けて拾いに行きます。
ロイヤル「……びっくりした。まだ胸がドキドキしてる。なんだかいろんなものが、一瞬で壊れて変わってしまった気がする……」
坊っちゃんは、額に手をやって頭を振りました……。
緊張の余韻を残したまま、つづきます……!
*
(今回のポーズは、自作です)
今回も、たくさんのMOD・CCのお世話になりました。
すべてのクリエイター様に、心より感謝しております!
Thanks to all MODS creators!

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(↑ ぺしっと押して頂けると、土と砂で汚れたテーブルを坊っちゃんが拭きます。たぶん。↑)
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